文=松原孝臣 撮影=積紫乃

桃太郎一行が鬼ヶ島で鬼を討伐した後の物語

 それは祝祭の空間のようでもあった。

 11月7日から10日にかけて行われた、東京パノラマシアターの公演『MoMo de la Paris ~パリから来た桃太郎~』(渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール)。その千秋楽は、まさにそう言ってさしつかえない、観る人々の高揚に満ちていた。それを呼び起こしたのは、舞台に繰り広げられた、従来のジャンルにとらわれない、独自性にあふれた表現にほかならなかった。

 東京パノラマシアターは、ダンスと芝居を融合した新たなエンターテインメント集団として、2010年、旗揚げ公演を行い、スタートを切った。立ち上げたのは「劇団四季」「音楽座」での活動をはじめ、さまざまな舞台を経験し、ダンサー、振り付け、演出家として活動している鈴木ゆまだ。

 旗揚げ以来、折々に公演を行い、第7回公演として送り出したのが『MoMo de la Paris ~パリから来た桃太郎~』であった。

「~これは誰もが知る、そして誰も知らない物語~」

 と、うたう本公演は、昔話の「桃太郎」の、桃太郎一行が鬼ヶ島で鬼を討伐した後の物語だ。

 ——桃太郎に宝を奪われた鬼ヶ島の鬼たちは、どうにか宝を取り戻そうと、百鬼も惑わす美しい赤鬼の娘「お清」を 桃太郎の家に送り込む。ところが素性を隠して暮らすうちに、二人は惹かれあっていく、 鬼ヶ島から迫られる桃太郎暗殺の命令、再び鬼退治に行こうとする桃太郎。 互いの本当の姿を知ったとき、桃太郎の、そしてお清のとる決断とは?——

 まさに皆が知る「桃太郎」のその後を描いた物語は、東京パノラマシアターならではの表現とともに展開された。役者やダンサーたちの集団が生み出すけれんみのない、でもたしかな新しさを感じさせる舞台は、ときにダークな、艶やかな、そして情感あふれる空気が広がった。

 それを貫くのは脚本だ。

「一方の側面から見られると『良い』とされるものが、視点を変えてみると全く違ったものに映ってくることはありますよね。合わせ鏡のような多面性のある現実の不合理というものが生きている中で気になっていて、桃太郎の鬼退治というものも、退治された鬼側から見ればただの侵略。正義とされているものが反対から見ると悪。でも、どちらも自分たちが正義だと思っている。そのどちらにもある、愛がある上での憎しみ、悲しみを表現したいなと思いました」

 続けてこう語る。