文=松原孝臣 撮影=積紫乃
ジャンプはすべて1回転からの再スタート
2023-2024シーズン、山本草太はスケートカナダで優勝した。グランプリシリーズの大会では初めての記念すべき優勝だった。
この試合後、こう語っている。
「怪我があって、ここまで戻せると思いませんでした」
山本は以前、大きな怪我を負い、ブランクを経て復帰してきた経緯がある。
2016年3月、右足首を骨折。7月に「ドリーム・オン・アイス」に出演し順調に回復したかに思われたが7月末に右足内側の踝を疲労骨折。10月末には再度同じ箇所を痛め、手術を3度行った。容易ならざる状況にあったが2017年9月の中部選手権に復帰。ジャンプはすべて1回転からの再スタートだった。当時をあらためて山本は振り返る。
「怪我したときはリハビリして復帰、と思っていたんですけれど、再発してしまったり、その後なかなか治らず数カ月単位でMRIを撮っても全然骨が形成されず、状況が変わらない日々を過ごしていました。考えたくはなかったですけど、引退とか就職も当時は考えました」
最初の右足首骨折は世界ジュニア選手権への出発直前のことだった。その前年の同選手権では3位になり、ジュニアグランプリファイナルでも2年続けて表彰台に上がるなど将来を嘱望される存在となっていた。その中での出来事だ。ネガティブな心境に陥って不思議はない。山本も言う。
「もちろんそういうときはありましたよ。初めて怪我をしてそこから2度、3度と再発して手術になって、かなり苦しかったですね。もう1人でいたいという時期もありましたし、前までの自分とは少し変わってしまう時期はありました」
それでも心折れることなく、スケートと向き合ってきて今がある。
現在も右足首にボルトは3本入っている。
「練習量を増やすと捻挫が増えてしまいます。ジャンプの着氷は全部右足でボルトが入っているのは右足首でいちばん負担がかかる箇所です。着氷のとき、練習量が増えると疲労度が高くなってきて、ひねって降りてきてしまうんですね。失敗が増えると捻挫がまず出てきて、その緩いまま練習するとかなり負担がかかります。衝撃がかかる感覚は今でもあり、だからそういう捻挫はけっこう怖いです。怪我したときもひねる動作と衝撃が加わってのことだったので。その動作はかなり気をつけながら、氷上の練習だけを増やしているのではなくまわりの筋力だったりを鍛えるトレーニングを前より増やしています」
一方で、ここ2シーズンほどの山本の練習量に驚く声を耳にしたことがある。
「どの選手もそうですし、どの競技もそうですけれど1本1本、ほんとうに気が抜けない世界だと思います。でも結果を出したいとなると、やはり量というのも大事にはなってきます。復帰してからいろいろなシーズンを送ってきて、自分の中ではこういった練習が必要、こういう量が必要というのがやっと分かってきています。そうなるとやっぱり練習量が増えてしまうことになります」
それに耐えられる体作りにも取り組んでいてもリスクは伴う。
「もちろん怖さはあります。いつ、どういう怪我をするのか。でも、どうなっても後悔しないという覚悟も日々あります。自分にはその先は分からないですけど、いつどうなっても後悔はしないトレーニング、練習はしているかなと思います」