文=松原孝臣 撮影=積紫乃
シーズンを終えて、しばらくの時が経った。その足取りを振り返る中で、フィギュアスケーター山本草太は語った。
「今が幸せかなって思います」
そこにはこの1シーズンにとどまらない、過ごしてきた時間からの思いが込められていた。
GPS初優勝もGPFに出場できず
「自分の中でのプレッシャーを感じながらのシーズンでした」
2023-2024シーズンをこう表す。
その前シーズンの2022-2023シーズンはグランプリファイナルに初めて進出し大会では2位と表彰台に上がった。世界選手権にも初めて出場を果たせた。
「やっと努力が実ったようなシーズンを過ごせた」1年を過ごしたからこそ、さらなる飛躍を期していた。それが重圧にもつながったという。
「プレッシャーを感じながらシーズンに入ったんですけど、夏の試合だったり、オータムクラシックでは全然いい演技ができませんでした」
練習量を増やすなどして立て直しを図って臨んだグランプリシリーズ初戦、スケートカナダでは同シリーズ初優勝と好成績をあげる。
「結果としては満足のいくものだったんですけど、調子がいいと言いきれない状態での試合だったので、それが次に出てしまったかなと思います」
「次」とは中国杯。2年続けてのグランプリファイナル進出がかかった大会で6位にとどまり、ファイナル行きはかなわなかった。
ファイナルに出られなかったことで、年末の全日本選手権までの時間は空いた。練習に専念する期間は増えた。だが調子は上向かなかった。むしろ逆の方向へ向かった。
「全日本までの1カ月半という時間はすごく苦しく、どん底まで落ちる日々で、4回転ジャンプがままならない、跳べない日もよくありました。やってもやってもできなくて、『だめだ』とほんとうに練習中に折れて練習を終えざるを得ない日もあったくらいです」
調子が上がらない。それでも大会は近づいてきて、開幕を迎えた。
ショートプログラムは、今までの山本のカラーとは異なるジャズに挑戦してきた『Chameleon』。その成果をいかす表現をはじめジャンプもすべて成功。完璧な演技を披露し、宇野昌磨に続く2位と好発進する。
フリーは『エクソジェネシス交響曲第3番』。
冒頭、4回転サルコウを成功させると、次々にジャンプを決めていく。曲調もあいまって、雄大さを感じさせる滑りに情感が漂う。フィニッシュ。ショートに続き完璧な演技を披露し、フリーは3位、総合でも3位、10度目の全日本選手権で初めて表彰台に上がった。
山本が明かした全日本選手権までの苦しい日々からすれば、見違えるような姿が氷上にあった。シーズン最高の演技はどのようにして生まれたのか。