文=松原孝臣 撮影=積紫乃

 今年2月に福岡で上演され、大きな反響を呼んだアイスショー「滑走屋」。1回は1時間15分、1日に3回公演という形態もさることながら、プログラムごとに途切れることのない構成、スピード感にあふれる滑りや振り付けとともに大きな反響を呼んだ。

 その立役者となったのがダンサー、振り付け、演出家として活動する鈴木ゆまである。フィギュアスケートで振り付け等をするのは初めてだという鈴木に、「滑走屋」に携わる経緯、完成までどう進めたのか、鈴木の足取りも交えつつ、たどっていく。

 

高橋大輔との出会いは2019年の『氷艶』から

「劇団四季」「音楽座」で活動、そのほかさまざまな舞台に出演。2010年には「東京パノラマシアター」を立ち上げた鈴木ゆま。「滑走屋」をプロデュースした高橋大輔とのかかわりから話は始まる。

「2019年の『氷艶―月光の如くー』に出演したときからご縁があって、その後もずっと仲良くさせていただいていました。去年の5月に、私が脚本・演出をする東京パノラマシアターの新作『青い鳥~7つの大罪~』を東京芸術劇場で上演するのでよかったら見に来てください、と声がけをして、高橋さんが来てくださいました。『すごいよかった』『作品の世界観がすごい好きだ』と言ってくださって、けっこうダークで残酷なシーンもある作品で、高橋さんってさわやかなイメージだったので、意外にこういうのが好きなんだって驚いた記憶があります」

 それから半年ほどが経った10月頃に「ちょっと話があるんだけど」と連絡があった。

「氷艶のメンバー何人かで集まってご飯を食べたりとかはあったんですけれど、2人でというのは初めてだったのでなんだろうと思ってお会いしたら、自分がプロデュースするアイスショーで振り付けをやってくれないかと依頼をいただきました。すごく驚いたんですけれど、そのときに私に依頼する理由を話してくださったり、『このナンバーがよかった』と具体的に言ってくださったんですね。そのナンバーは10人くらいいたんですけれど、同じ振りを踊るというよりも10人が有機的に個々の動きをしつつも決してぶつからないで踊りを展開していくシーンがすごく印象的だったらしくて。その空気感とスピード感、疾走感を群舞として求めているんだとうかがったときになるほどと思いました」

 フィギュアスケート自体はテレビでよく観ていたという。

「それこそ大輔さんが(2010年の)バンクーバーオリンピックで銅メダルを獲られたときや荒川静香さん、浅田真央ちゃんだったり、ショーや大会のときはテレビにかじりついて観ていました。まさか振り付けを、クリエイションを一緒にやるなんて思ってもいませんでした」

 加えて、「滑走屋」への思いも伝えられた。

「将来的に若いスケーターのためになるショーというイメージを持っていて、スケーターを育成したいということ、皆さんに低価格で見やすくしたいという全体的なこともお話いただきました」

 依頼を承諾したあと、具体化する作業が始まった。