なぜスケーターがそこに出てくるのか

「曲は全部大輔さんが決めてくださって、それぞれのナンバーで何人、この人を出したいというキャスティングや流れはうかがいました。具体的にディテールがあるところもあったんですけれど、おおよそディテールは私に任せてくださいました。ソロナンバー以外に15曲あったのですが、その作る過程は私たちの中でも15の試行錯誤のドラマがありました。どうつくりあげたかというと、私が曲を聴いてぱっとインスピレーションが出て世界観をつくったナンバーが多かったのですが、大輔さんに構成を考えてもらって私が振り付けをはめていくもの、村元哉中ちゃんが構成を作って一緒に振り付けを考えたものもありました」

 一つずつストーリーを描きながら、一貫した姿勢があったという。

「共通のポイントとしてあったのは、『動機』です。もともと役者をやっているので、なぜスケーターがそこに出てくるのか、どういう空間でなぜ滑り始めるのかが見えてこないと私は振り付けられないんです。なので、1曲1曲、どうしてこの人がこのタイミングで出てくるのか、どうしてこの2人なのか、4、5人で次に滑り始めるのか、そういう動機をはっきりさせることから振り付けをしました。なんにしても根拠はあったということです」

 一例をあげる。

「中盤に『CRY ME A RIVER』という群舞があります。それは私がすごく難航したナンバーです。(青木)祐奈ちゃんの1人の動きはできるんですけど、そこにメインスケーターも含め10人くらい出てくるんですね。彼らの祐奈ちゃんと空間を共有する理由、どういう存在としてそこにいられるのかが見出しづらかったからです」

 やがて手がかりをみつけ、作業は進んでいった。

「あのナンバーは水がテーマなんですね。祐奈ちゃんの流した涙がこぼれて池になって、その池が湖のようになって、彼女の心が凍りつくのと同時に湖が凍ってその上で滑る。さらにエモーショナルなものが流れ込んできて、ちょうど角の一つのところから濁流のようにうねって皆さんが出てきて、その濁流が押し寄せてくる。それがはね返って海原のようになり、渦を巻いて雷が落ちてきたりして騒然とした状態になるというストーリーを考えました。

 その水をみんなの動きで作り出したらそこに存在できると思って、『こういう存在感でスケーティングを作ったら』と提案したら、『それ面白いね』となりました。例えば濁流の動きってなんだろうということで、スケーティングでうねっていくものを混ぜて滑走してもらったり、私がそれを見てうねりを深くしたり、ミクロなやりとりをして調整して1パート1パート作って、全部のピースを皆さんに渡しました」