文=酒井政人

相模原ギオンスタジアム 写真=PIXTA

新たな指揮官が就任した2校が難関突破

 今年も全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会には数々のドラマがあった。そのなかで〝下剋上〟を引き起こしたといえるのが立大と神奈川大だろう。期限内10000m公認記録(上位8人の合計タイム)は17位(神奈川大)と18位(立大)。今季から新たな指揮官が就任した両校が「7枠」に滑り込んだのだ。

 立大は1組の安藤圭佑 (4年)が6着(29分33秒00)、永井駿 (3年)が17着(29分41秒66)で滑り出すと、2組は1年生コンビが健闘。鈴木愛音が 15着(30分07秒36)、山下翔吾が19着(30分15秒09)に入った。そして3組で大躍進する。

 林虎太郎(4年)と國安広人(3年)が2着(29分04秒32)と3着(29分04秒86)に入ったのだ。「1年生が2組を耐えてくれたので、3組で切り返すつもりでした」と林は気合十分だったが、「2人で10番以内に入ればいいかな」と冷静にレースを進める。終盤勝負に徹したことで、想定以上の順位を勝ち取った。

 総合成績で3位に浮上した立大は最終4組も馬場賢人(3年)と稲塚大祐 (4年)が20着(29分09秒48)と26着(29分23秒49)で走破。総合5位で全日本大学駅伝の初出場をつかんだ。

 

「8~9割の力をだす」という高林監督の指示が的中

 立大は4月から駒大、トヨタ自動車で活躍した高林祐介監督が就任。早くもチームに〝変化〟をもたらしている。

「前監督はスピード重視だったんですけど、自分たちの課題はスタミナだと見抜かれて、走行距離が増えました」と林が話すようにトレーニング内容が刷新された。

 昨年までトラックシーズンの月間走行距離は400~500㎞ほどだったが、高林監督は「最低でも600~700㎞ぐらいは踏まないといけないんじゃないか」と選手たちに語ったという。

「選手たちは距離を踏んでいると言っているようですけど、全然踏んでないですよ。高校生が大学生になりましたというくらい。正直、そんなにやっていないです」と高林監督は言うが、確実に「土台」を作ってきた。

 5月の関東インカレ(2部)は青木龍翔(2年)が1500mを制すと、稲塚が激戦のハーフマラソンで5位に食い込み、新監督は選手たちの信頼を得た。そして高林監督が学生時代に経験したことのない全日本大学駅伝選考会でも「120%はいらん。8割、9割の力をだしてくれ、というのを選手に伝えて、それができました。基本的には全組、上位を狙うんじゃなくて、10番以内を目安に走っていこう」という指示がピタリと的中。チームとして初めて難関を突破した。

「ガラッとは変えられないので、ちょっとずつ変えながら、やってきました。まだ3カ月弱ですけど、兆しが見えた部分あります」と高林監督。再スタートを切った立大が面白くなってきた。

 

最終組で逆転に成功した神奈川大

 神奈川大は今回の選考会へ参戦するのに一苦労した大学だ。それでも序盤から好スタートを切った。1組は滝本朗史(2年)が7000mで飛び出して、自己ベストの29分29秒70で3着に入ると、大岩蓮(2年)も29分33秒32の7着と好走した。

「10~20着で堅実に走り、そのなかで稼げるところは稼ぐという作戦でした。最後は抜かれちゃいましたけど、ある程度、(飛び出しが)成功したと思います」(滝本)

 2組は中西良介(4年)が8着(30分04秒33)、三原涼雅(2年)は転倒に巻き込まれながらも11着(30分05秒76)に入る。3組は酒井健成(3年)が20着(29分39秒05)、髙潮瑛(3年)が23着(29分42秒55)とやや苦戦して、3組終了時の総合成績は8位。圏内となる7位の明大とは2秒48差につけていた。 

 そして8人の留学生が参戦した最終4組の宮本陽叶(3年)と新妻玲旺(2年)に〝逆転〟が託される。明大勢を少しでも引き離したいところだが、宮本は最後尾からスタートした。

「自分はトラックが苦手なので、一番後ろから攻めていきました。例年、日本人集団は5000mを14分20~30秒で通過する。それくらいで入って、ひとりで押して行ったんです」と宮本は徐々に順位を上げていく。そして、残り2周でラストスパートが〝炸裂〟した。しかし、本人は周回をカン違いしており、もう1周を必死で駆け抜けて、17着(29分04秒01)でフィニッシュ。新妻は34着(29分54秒95)でゴールした。

「僕がミスしなければ、もっと稼げたかなと思うんですけど……」と宮本は複雑な表情を浮かべていたが、神奈川大が明大を逆転。ラスト1枚の伊勢路キップを手にした。

 神奈川大は今年1月に中野剛駅伝監督が就任。各自ジョグが多かった朝練習を集団走に切り替えるなど、全体的にトレーニング量を増やしてきたという。

「持ちタイムがないので、それを上回っていくのは練習しかありません。走行距離は去年と比べて全然違うと思いますし、質も格段に上がっています」と中野監督。たくましくなってきた選手たちは、酷暑のトラックレースでも底力を発揮した。

「1組の滝本は1年間レースに出ていないですし、大岩は10000m初挑戦。そのなかでも思い切ったレースをしてくれました。4組の宮本は早めにスパートするなと思ったんですけど、結果オーライで、よく頑張ったと思いますよ」

 今年の箱根駅伝は21位と大苦戦した。そのメンバーが7人も卒業したが、2年ぶりの全日本大学駅伝出場を決めた神奈川大。プラウドブルーのタスキが再び、輝くときがやってくるのか。