文=酒井政人 写真提供=ナイキジャパン

全日本選考会メンバーが合宿を実施

  鉄紺が静かに燃えていた。

 東洋大は全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会に向けて、5日間の福島・猪苗代合宿を実施。エントリーされた13人が走り込んでいた。そのなかに1年生が4人(内堀勇、松井海斗、宮崎優、迎暖人)。松井は関東インカレの1部5000mで自己ベストの13分51秒77をマークして5位(日本人3位)に入るなど、すでに存在感を発揮している。

 「例年だと結果を出せる1年生は少ないですけど、今年はかなり多いかなと思います。下からの突き上げというか、1年生が元気なので、その相乗効果でやれていますね。メンバーはしっかり練習をやれているので、状態は上がってきています」と主将・梅崎蓮が話すほどチームの状況は良好だ。

 

全日本14位から箱根で4位に急上昇

 上昇ムードの東洋大だが、昨季は厳しい戦いが続いた。出雲駅伝は7位。全日本大学駅伝は過去ワーストの14位に沈んだのだ。箱根駅伝はシード権獲得が危ぶまれたが、〝3年生コンビ〟の激走がチームを変える。

 2区梅崎蓮が8人抜きを演じると、3区小林亮太で5位に浮上。ふたりが鉄紺を波に乗せた。さらに小林の給水係を務めた石田洸介の心を揺さぶった。

「自分は昨年度、三大駅伝のメンバーに入ることができず、チームを離れた時期もありました。箱根駅伝はチームを支えてきた梅崎と小林が魂のこもった走りを見せてくれて、自分は本当に感動しましたし、最終学年はふたりとともに、笑って終わりたいと心の底から思ったんです」

石田洸介

 東洋大は箱根駅伝を総合4位でフィニッシュ。全日本から〝10校抜き〟を演じると、今季は5月の関東インカレで活躍した。

 初日の10000mは石田が28分08秒29で6位、小林が28分12秒77で7位。石田は日本人集団を引っ張るなど、その走りは気迫がみなぎっていた。小林は自己ベストを約24秒も短縮している。

「石田とふたりで流れを作ると決めていたので、しっかり入賞できて良かった。自分は必死についたので、うまくタイムもついてきたかなと思います」(小林)

小林亮太

 東洋大はハーフマラソンで梅崎が日本人トップの2位(1時間03分19秒)、薄根大河(2年)が4位(1時間03分49秒)。5000mはルーキー松井が5位、西村真周(3年)が7位(13分54秒18)に入り、長距離3種目でW入賞を果たした。

「関東インカレは100%、良い結果だったとは言えませんが、東洋の層を見せつけられたのかなと思います。昨季は『鉄紺の再現』をスローガンに掲げて、箱根駅伝で4位に入りました。再建の兆しが見えて、自分たちの代では、『鉄紺の覚醒』をスローガンに掲げて始動しました。最上級生として、練習でも生活でもしっかり引っ張っていこうと思っています」(石田)

 猪苗代合宿ではトラック練習で石田が後輩たちに声をかけるなど、最終イヤーにかける熱い思いが伝わってきた。

 

目指すは箱根駅伝の総合優勝

 関東インカレを終えて、次は6月23日の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会がターゲットになる。

「全日本選考会はトップ通過して、いい流れを作れるようにしていきたい。最終的な目標は箱根駅伝で総合優勝することです。4年生が引っ張らないと下級生はついてこないと思うので、結果を求めていきたい。区間のこだわりはあまりないので、どこでも走れるような準備をしていきたいです」(梅崎)

梅崎蓮

 3年生から「淡々とやるタイプ」と評される主将は言葉数こそ多くないが、非常に力強かった。

 3年生から「ムードメーカー」としても頼りにされている小林は、「昨季は走るだけで精一杯でしたが、今季は下級生に言葉をかけて、しっかり引っ張っていきたい。3区は自分のなかでこだわりを持っているので、箱根は3区を希望しています」と話していた。

 1年時の出雲と全日本で区間賞を獲得して、2年時は主要区間を担った石田。5000mの元高校記録保持者は、「自分は3年間、走りで引っ張っていけなかったので、最終学年は何としてでも背中で引っ張っていきたい。区間のこだわりはあまりないんですけど、昨季はチームに貢献できなかった分、後輩たちにはしっかりと(結果を)残したいと思っています」と燃えている。

 それから、まだ三大駅伝に出場していない永吉恭理も最後のチャンスにかけている。

「自分は3人のようにキャプテン、副キャプテン、副寮長といった大きな役割はないんですけど、役職についている4年生を影から支えていきたい。今年の箱根駅伝は8区の予定でしたが、当日変更で交代になりました。個人的には8区で走れなかった悔しさを晴らしたい」

 最上級生が強い意志でチームを引っ張っている東洋大。〝覚醒〟のときが近づいている。