文=酒井政人 写真提供=ナイキジャパン

酒井俊幸監督

関東インカレで大活躍

  今年の箱根駅伝は総合4位。目標にしていたトップスリーに21秒届かなかったが、東洋大は全日本大学駅伝のワースト14位から見事な〝復活〟を遂げた。

 その勢いは止まらない。5月の関東インカレは5000m、10000m、ハーフマラソンでW入賞。チームの指揮を執る酒井俊幸監督はこう評価した。

 「長距離種目で複数入賞できたことと、全学年から入賞できたのは良かったと思います。初日の10000mで4年生の石田洸介と小林亮太が入賞(6位、7位)しました。特に石田は初めてのインカレでしたが、自分で集団を引っ張るなど、レース内容も良かった。戦う姿勢を示してくれたのが大きかったと思います」

 短距離の主力選手が欠場したこともあり、3日目終了時点で東洋大の総合順位は13位。2部降格のピンチに立たされていたが、最終日はハーフマラソンで梅崎連(4年)が日本人トップの2位、薄根大河(2年)が4位。5000mは松井海斗(1年)が5位、西村真周(3年)が7位に食い込み、長距離種目で大量得点をゲットした。

「最終日はハーフで梅崎が3年連続の表彰台で、2年生の薄根も4位に入った。それで5000mに出場する選手たちの気持ちが上がったと思います。1年生の松井は勝負どころでうまく位置取りをして、レース巧者の走りができた。インカレで通用するのは本物ですよ。4年生が流れを作ってくれて、そこに下級生たちが乗っていった。チーム作りとしてはすごく良かったのかなと思います」

 

猪苗代合宿を経て全日本選考会へ

 6月23日の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会に向けて、東洋大は6月11~15日に福島・猪苗代で合宿を行った。

 そのメンバーは関東インカレで入賞を果たした6人に加えて、永吉恭理(4年)、網本佳悟(3年)、 岸本遼太郎(3年)、久保田琉月(2年)、 内堀勇(1年)、宮崎優(1年)、 迎暖人(1年)の合計13人だ。猪苗代合宿の目的を酒井監督はこう説明した。

「大学の競技場が改修工事をしているので、学内でトラック練習ができないんですよ。全日本選考会は10000mなのでトラックで調整したい。それに猪苗代は朝や夕方は少し涼しいので、気候的にちょっとダメージを残したくないという理由もありますね。2年前は関東インカレも暑くて、ハーフと全日本選考会を兼ねた選手はそのダメージが残りましたから」

 選手たちの体調面を計算しながら、全日本選考会に向けて調整しているようだ。関東学連選考会の通過枠は「7」。エントリー選手の上位8名の申し込み記録の10000m平均タイムは東海大に次ぐ2位(28分41秒11)につけているが、「東海大、早大、順大など強豪校も出場します。通過を第一優先に考えていきたい」と酒井監督は慎重だった。

 なお取材に訪れた日はトラックのスピード練習を実施。全日本選考会のレースを想定して、ペース変化をつけて行った。選手たちの大半はスパイクの『ナイキ ドラゴンフライ』を着用していた。そしてウォーミングアップと翌日の朝練習は6月5日に発売された『ナイキ ペガサス 41』を履いて、選手たちは軽快に駆け抜けていた。

 

シューズの進化で練習メニューも変化

 近年はカーボンプレートを搭載した厚底シューズが〝主役〟になり、高速化が顕著になった。一方で、大腿部など股関節まわりの疲労骨折が多くなっている。酒井監督はシューズの進化を考慮しながら、トレーニングを少しずつ変えているという。

「脚を強化する目的で非厚底シューズを使用してポイント練習をしていた時期もありますが、昨年あたりからは『ヴェイパーフライ』や『アルファフライ』など厚底シューズをポイント練習だけでなく、距離走でも積極的に使うようにしています」

 長距離のトラックレースは靴底が25mmまでという規定があるため、選手たちは主にスパイクを着用する。一方、駅伝やマラソンでは靴底が40mm近くある厚底シューズを履いている。そこにノンカーボンの非厚底シューズが入ると、フォームを崩してしまう選手が出てくるのだ。

「シューズがどんどん高性能になってきています。それをすぐに履きこなせる選手もいれば、履きこなすまでに時間がかかる選手もいる。それならばレース用シューズを履きこなすためにも、実践的なトレーニングから着用した方がいいという考えです。厚底シューズは10kmを超えると履きこなすのが結構しんどくなってくる。そこにポイントを当てて強化しています」

 レース用の厚底シューズだけでなく、ジョグ用ともいるシューズも性能が上がっている。特にペガサスは「40」から「41」になって大きく進化した。主将の梅崎蓮も「40は結構硬いイメージがあったんですけど、41は柔らかくいのに反発力がある。万能シューズかなと思います」と大幅なアップデートを実感している。

 東洋大の選手は『ペガサス 41』を履いている選手が多く、自然とジョグのスピードも上がっているようだ。

「ジョグのペースが遅いと、上に跳ぶような走りになってしまいますし、フォームが変わっちゃうんですよ。ジョグもポイント練習に近いフォームで走る選手が増えています。以前のようなLSD(ロング・スロー・ディスタンス)はだいぶ減りましたね。距離走のペースも速くなりましたが、その分、走る距離は短くしています。フォームを作るための練習や構成に変えました」

 酒井監督の話では以前はキロ4分ペースで30kmというメニューもあったが、距離走はキロ3分半がベースになりつつあるという。ジョグのペースはキロ4分ほどで、乗ってくればキロ3分半くらいになるようだ。

 

世界を目指す取り組み

 箱根駅伝で「総合優勝」を目指している東洋大だが、「世界」を見据えた取り組みも欠かさない。8月の北海道マラソンには梅崎蓮と松山和希(4年)が出場を予定しているのだ。梅崎は2月の延岡西日本で初マラソンに挑み、2時間10分19秒の2位と健闘した。松山は今回がマラソン初挑戦となる。

「学生のマラソンでは、40㎞走とかレースペースのような追い込んだメニューは一切やらせていません。梅崎も延岡西日本の前は40㎞走を一本もやっていないです。ジョグの延長ともいえる距離走と、トレーニングの継続性で挑むだけですね。それでもある程度は走れちゃうんです。その方がダメージは残らないですし、将来的にいろんな要素を残しておいた方がいいと思っています。そのなかで夏マラソンも一度は経験した方がいい。世界大会は夏に開催されますから」

 学生のうちから将来を見つめて、果敢に取り組んでいく。服部勇馬(トヨタ自動車)、相澤晃(旭化成)らに続いて、今後も東洋大から日の丸ランナー羽ばたくだろう。