文=酒井政人 写真提供=ナイキジャパン

厚底シューズで革命をもたらした

 大迫傑が他メーカーからナイキに履き替えたのは大学3年時だった。それまでも強烈な輝きを放ってきたが、ナイキを着用するようになって明らかに目の色が変わった。「絶対に強くなってやる」という気持ちが増幅していったのだ。

 そして大学卒業後に渡米。社会人2年目からはプロランナーとして活躍した。

 トラックでは5000mで日本記録を樹立して、リオ五輪(5000m、10000m)に出場。2017年からはマラソンに挑み、何度もドラマチックな走りを披露した。

 日本記録を2度も更新。「ラストラン」として臨んだ東京五輪は6位入賞を果たしている。

 日本人選手で〝厚底シューズ〟を最初に履いたのも大迫だった。彼の快走があったからこそ、国内の主要レースでもナイキが〝主役〟になった。

 そして華やかなストーリーの影には、日本マラソン界のカリスマを支えてきたモデルがある。それが『ペガサス』だ。

「大学生の頃からペガサスをずっと愛用しています。初めて履いたのは『ペガサス 30』だったと思いますが、その当時から考えるとペガサスは随分と進化しています。でも、いまだに一番距離を積むシューズであることは変わりません。キロ3分40~45秒くらいのジョグなどでペガサスを履いていますし、キロ3分半ぐらいでも履くことがありますね」

 12年近くもペガサスを履いてきた大迫だが、これまで自分に合わなかったモデルはなかったという。

「年々、新しい技術が生まれていますが、ペガサスは良い意味で尖っておらず、すべてのバランスが良いシューズです。このバランスの良さが、長年気にいっている理由のひとつですね。周りでもペガサスが合わないという話はあまり聞いたことがありません。ペガサスはあくまでもペガサスなので安心感があるんです」

 

アップデートされた新しいペガサス

 大迫はナイキにとっても特別なアスリートのひとりだ。度々、新モデルのテスティングを行ってきたが、修正を希望したことはないという。

「ナイキはシューズの選択肢が多いので、自分のなかでこういう練習の時はこういうシューズを履きたいというイメージでシューズを選んでいます。強いこだわりということはなく、こちらを履いてみたらもう少し速く走れるかも、という感覚的なものです。ナイキのリサーチラボにも行ったことがありますが、開発のプロが作っているので、ナイキのテクノロジーを信頼しています」

 そのなかで6月5日に発売された『ペガサス 41』は劇的な進化があったようだ。

「昨年の『ペガサス 40』はマイナーチェンジという感じでしたが、『ペガサス 41』はフルモデルチェンジした印象です。足入れしただけでアップデートされたことを感じましたね。クッション性がさらに増しているだけでなく、反発もしっかりともらえるシューズに進化しています。ロードだけでなく、不整地やトレイルでも走りやすい。以前のペガサスはロードで若干硬い印象がありましたが、新しいペガサスは沈むんですけど、反発性があるんです」

『ナイキ ペガサス41』16,500円(税込)

 新しいペガサスは従来モデルと異なる部分もあるが、大迫は「ペガサスの使い方は基本的に変わらない」という。

「全体のバランスやシルエットは少し変わりましたが、ペガサスらしさはきちんと受け継がれています。新しいペガサスも一番よく履き、距離を走るシューズになると思います。速いロングランになると、『ヴェイパーフライ』や『アルファフライ』を履いたりしていますが、『ペガサス 41』は沈み込みの感覚が好きだった『ペガサス ターボ』に少し似ているところがある。アルファフライほどの反発性はありませんが、クッションと反発の感じがアルファフライと同じ延長線上にある印象です。今後はミディアムから速いロングランの間ぐらいでも使用するかもしれません」

 汎用性のあるペガサスは『41』になって、使用の幅がさらに広がったようだ。

 

ペガサスと大迫傑はまだまだ進化する

 大迫は6月8日の米国で行われた「2024ポートランド・トラックフェスティバル」の100000mに出場。28分16秒00で6位に入っている。4月のボストンマラソンは2時間11分44秒の13位に終わったが、今後は日本代表に内定しているパリ五輪に向けて、本格的なマラソン練習に入っていく。そのなかで『ペガサス 41』を着用する機会も多くなりそうだ。

「ペガサスは定番であり続けるための必要な進化を毎回遂げています。ナイキはどんな些細な箇所でも試行錯誤を繰り返し、進化させてきたことによって、今のようなブランドになったと思います。この姿勢が重要で、陸上選手にも同じことが⾔えます。練習内容など人目に触れない部分も日々アップデートし、常に進化していくことで、長いスパンで見たときに他をリードしていくような存在になれるんじゃないでしょうか」

 大迫が描いてきたサクセスストーリーの軌跡はペガサスの歴史と似ている。

 パリ五輪の後には、『ペガサス プラス』という新モデルが登場予定。来年の春には、立体的な形状に合わせてデザインされたビジブル エア ズーム ユニットを搭載した『ペガサス プレミアム』の発売を予定している。ペガサスの進化は止まらない。

 東京五輪から3年。一度は引退した大迫がパリ五輪で〝新たな勇姿〟を見せてくれるだろう。