歌舞伎のルーツは、安土桃山時代から江戸時代初期に出雲阿国(出雲のお国)が京都で始めた「かぶき踊り」や「阿国歌舞伎」。やがて、諸国を旅興行することで全国に広まり、一大ブームに。今年も6月末から歌舞伎の地方巡業が行われます。いつもの劇場とは違う舞台の近さや熱気に浸り、旅行を兼ねて地方の名物に舌鼓を打つ、地元で家族と芝居を観る——。巡業ならではの愉しみ方をご紹介します。

文=新田由紀子 

歌川広重 画「御曹子牛若丸、武蔵坊弁慶」 画像=東京都立図書館デジタルアーカイブ

「ミニ獅童くん」の牛若丸を見ておく

「地方巡業は、初めて観る人も楽しめる演目が選ばれていますし、ぜひ経験してみるといいですよ」と語るのは、このシリーズの第6回で話してもらった松田正美さん。10代から歌舞伎を観続けている彼女は、地方公演には大都市とはまた違う良さがあるという。

「そして、松竹の偉い人が、地方でも歌舞伎座とまったく同じ芝居をする。同じものを体験していただきたいと言っていたことがあります。ちゃんとした舞台を味わうことができるはずです」

 今年の巡業のひとつは「松竹特別歌舞伎」(6月30日~7月31日)で、全国22会場で上演される。6月の歌舞伎座で息子二人の初舞台を終えたばかりの中村獅童(51歳)が座長だ。

 幕開きの「中村獅童のHOW TOかぶき」は必見だという。

「歌舞伎を観る人が知りたい疑問などに答えていくのですが、獅童のこうしたトークには定評があります。会場中を飽きさせずに盛り上げるから、お子さんを連れていくのにもいいでしょうし、歌舞伎をよく観ている人にもなるほどと楽しめる時間となるはずです」

 俳優が化粧をしてかつらをかぶり、衣装をつけて変身していくところも見られる。

「2015年の赤坂歌舞伎で、舞台上の獅童と市川團十郎(46歳・当時は海老蔵)が扮装するのを見たことがあります。白塗りにしていくなど役者の段取り自体に様式美が感じられ、わくわくさせられます」

 終幕の「橋弁慶」では、獅童が武蔵坊弁慶、息子の中村陽喜(はるき・6歳)が後に源義経となる牛若丸を演じるのもお楽しみ。

「話題になった歌舞伎座の六月大歌舞伎での陽喜くんの初舞台、盛り上がっていました。弟の夏幹(なつき・4歳)くんと一緒に酒屋の丁稚として花道を歩いてお酒を届けに行く芝居。緊張していながら、小さい弟をうながしてそろって台詞を言うけなげさに、劇場中がその日いちばんの拍手でした。

 未完成ながらも歌舞伎が好きなことが伝わってくるこの年頃の一生懸命さには、幸せな気持ちにさせられます。20年、30年後、彼が活躍する時代の歌舞伎を楽しむためにも、ぜひ観ておくことをおすすめします。陽喜くんは、パパそっくりのミニ獅童。ちょっとたれ目のコミックのキャラクターみたいなかわいらしさで、親子のYouTubeやインスタも思わず見てしまいます。

 獅童といえば、昔はやんちゃなイメージもありました。しかし、今や息子たちにしっかり向き合って歌舞伎役者として育てようとしており、大役もつとめて歌舞伎界を引っ張っていっている姿に、隔世の感があります」