青木は「身体のボキャブラリーがすごく多い人」

2024年2月9日、アイスショー「滑走屋」公開リハーサルでの青木祐奈 写真=YUTAKA/アフロスポーツ

 スケーターたちがどう動くのか、構図を考え、1人1人の動作を振り付けていく中で内面も掘り下げていった。

「最初、皆さんに何も言わないで振り付けは渡すんですけれど、ある程度体に振り付けが入ってきた段階で曲の中のそれぞれのセクションのイメージの共有をしていきました。例えば、最初は大輔さんと(島田)高志郎くんと(山本)草太くんと、松岡(隼矢)くんの4人が出てくるんですけれど、その存在は、祐奈ちゃんが自分の湖の中をのぞいたときにいる自分じゃない存在とか感情の中で出てくるよくないもの=悪魔とか抽象的な存在だよと話したり、濁流のうねりや竜巻であることを伝えたり。

 一方で祐奈ちゃんはその環境とか空間に飲み込まれていく役なので、彼女とセッションを続けました。手を出すにも何かを求めて出す手と、誰かを拒絶して払う手って違うじゃないですか。振り付けの一つ一つのイメージを日常生活に置き換えて『こういうときこうするよね』『こういうときこういう気持ちになるよね』ってお互いに共感を探りながらつくっていました」

 青木との作業の中で発見もあったという。

「皆さんの中でも祐奈ちゃんはずば抜けて感覚が研ぎ澄まされていて、言ったことをすぐ身体で表現するのがとても上手で、身体のボキャブラリーがすごく多い人だなとびっくりしました。例えば『どうして振り返るの?』と疑問を投げかけると、自分の中でちゃんと処理して体で表現することができていて、身体の表現力がすごく高かったですね」

 振り付けで印象的だったのは、群舞であっても振り付けはスケーターごとに異なり、それでも統一感が保たれていたことだ。

「動きはばらばらでも全体の絵がちゃんとあるので統一感が生まれると思うんですね。例えばオープニングの『Vecna's Grandfather Clock Theme』というナンバーだと、最初に時計のネジのような動きをバラバラでしているんですけれど、そのシーンは空間と時空の誕生で、その中で皆さんは時間というものを体現しています。みんな違う動きをしていても、自分は時間そのものなんだとか、時計の針なんだとか、振り子時計なんだとか、時間というテーマで共有したイメージを持っているので、ちぐはぐしたものにならないのだと思います」

「滑走屋」では、従来のアイスショーにはなかった、集団が氷上に描きだすフォーメーションとも言うべき動きもまた斬新さを生み出していた。それはどう形作られたのか。(続く)