文=松原孝臣 撮影=積紫乃
怪我をしなかった理由
宇野昌磨で特筆されるのは、大会に出場し続けたこと。全日本選手権に13年連続で出場し、最後の大会となった2023年まで10年連続で表彰台に上がったことは象徴的だ。
トレーナーの出水慎一は言う。
「怪我に強いということはあります。彼の生まれ持ったものもあって、骨は結構頑丈な方ですけど、関節は柔らかいんですよね。運動神経がいいのも遺伝なので、そういうのが勝っていて大きな怪我が少なかったですね。あとは学習能力が高いので変な無理をしない。危ないなと思ったら自分で判断してわざとパンクしたり、無理やり降りてこないようにしたり。経験で学んだことも怪我を回避できる要因になっていました。無理をするのは、自分のジャンプができなくて、むきになって体が疲れているのに気づかず高さが足りなくて捻挫というパターンですね」
世界選手権の前、130本超という驚異的な本数を跳べたのも、特質や経験から学んできたことなどがいきていたという。
「ただ、例えば4回転フリップならフリップと、同じジャンプの練習を続けてするんですよ。連続で30本とか跳ぶ。続けることで課題がみえてくるのでやっていました。でも同じジャンプをするのは30本が限界なんです。それを超えると怪我のリスクが一気に上がるので、本数を超えそうになると『次で何本だよ』と話して超えないようにしていました」
その上で心がけていたのは「彼は右足首の捻挫の数がすごい多かったので、骨にトゲみたいなのができているんですよ。それが関節の中でずれてあたると痛くなるので、あたらないように足首の位置を調整したり、筋力をつけたり、といったサポートをずっとしていました」。
欠場の選択はなかった
怪我を回避する能力は高くても、怪我を負うことはしばしばあった。それでも大会に出場し続けた。
「欠場の選択は彼にはなかったですね」
と出水は言う。
「全日本選手権のアップ中に捻挫したことがあります」
それは2018年12月の全日本選手権だ。ショートプログラム当日、午前の公式練習前のウォーミングアップでのできごとだった。
「あのときも出ると決めていました。本人は歩ければ試合に出ます、という考えなので。気持ちはほんとうに強いですね。(2023年の)さいたまの世界選手権も試合直前でした。それでもできるのは気持ちの強さです。私はそれを尊重してきました。周りからはいろいろ言われます。怪我した選手が無理にするとよけいにひどくなるじゃないかとか、医療従事者の方がいいと思わないのも分かります。『次の大会があるからスキップすればいいじゃないか』というのは正しいと思います。それはそうです。でも彼の考え方、スタイルがあってやっているのでそれは尊重するし、だから「後遺症が出ないものだったら止めないと」言ってきました。その上で、どうやったら最大限カバーできて痛みを分散していつもの状態に近づけるのかだけをやっていました」
気持ちはほんとうに強い——日本代表の出場枠がかかる世界選手権で万全でなくても活躍を続けたこともその例にあげられるだろう。同時に、一連の話は、自身を尊重して最大限にサポートしてくれるスタッフに宇野が恵まれたことも伝えていた。