他人ではなくて、自分と常に比較する

2024年6月23日、パリ五輪に出場する選手の活躍を祈るイベントにて、東京スカイツリーの展望台に歩いて到達した宇野 写真=共同通信社

 もう1つ、宇野の特質をあげる。

「彼は人と比較するのではなくて、自分と常に比較する、勝負するというのが根本にありました。他の人と比べてどうこうではなかったので、そこも強みだったんじゃないかなと思います」

 何年も過ごす中で感じた人となりは——。

「人としては、すごいまっすぐな人。それに尽きると思います。もう1つは、自分のことより周りのことを考えている人であるということですね。フィギュアスケーターとしては自分自身の成長を楽しみながら、自分に負けたくないというスケーター。彼からいろいろ学んでいます。例えば人と比べることに意味がないことは表面的には分かっているけれど、なかなかそうなれないじゃないですか。彼がやり続けて結果を出してきたのをみているので、私も影響されている部分はあります。最大限に努力して最大限に出す人、それが昌磨だと思います」

 出水は、フィギュアスケートでは小塚崇彦に携わったのを皮切りに、宮原知子、宇野昌磨とサポートにあたってきた。それぞれのスケーターから学び、それをいかしてきたという。

「たか(小塚崇彦)からは、フィギュアスケートそのものの土台を、メンタルも含めてすべて学びました。彼のおかげで交流関係が広がりましたし、みんなとの距離感は学ばせてもらいました。さっとん(宮原知子)は練習量は申し分ない選手で、ぜんぜん妥協しない。言ったことを100%以上全力でやって、なおかつ努力をし続ける子でした。昌磨には、先ほどもお話しましたが、人と比較しないことの大切さや、練習の内容、練習の量の大切さを学びました。私は昌磨も才能を持っている選手だと思うけれど、もっと才能に恵まれている人たちがいました 。その中で努力してあそこまで持っていったんですね」

 今、出水は渡辺倫果のサポートをしている。

「昌磨の練習量などは倫果にも伝えていますね。ただ、倫果は倫果のスタイルがあります。それを崩そうとは思わないし、ちゃんと芯を持っていて、彼女も自分で努力する選手です。だから『こういうこととこういうことがあるけれどどっちにする?』と選んでもらえるよう、情報を伝えていければと思っています」

 渡辺だけでなく、宇野ともトレーナーとして関係は継続していく。

「これからが楽しみ、彼がプロフィギュアスケーターとしてしていきたいことがあるはずなので、それをやりとげると思います。全力でやりたいことをやって、彼が幸せな人生を過ごしてくれるのが理想です」

 

出水慎一(でみずしんいち)スポーツトレーナー。国際志学園 九州医療スポーツ専門学校所属。 専門学校を卒業後、フィットネスクラブに勤務。18歳からスポーツ現場や整骨院で修行を続け、その後、九州医療スポーツ専門学校で学び柔道整復師の資格を取得。スポーツトレーナーとして活動する中でフィギュアスケートにも深くかかわり、小塚崇彦、宮原知子、宇野昌磨、渡辺倫果のパーソナルトレーナー等を務める。2018年平昌、2022年北京オリンピックにも参加している。