大谷 達也:自動車ライター
前2モデルとは実質、別物といえる成り立ち
クロスオーバー、スポーツ(SUV)に続く「クラウン第3のボディタイプ」であるセダンに試乗した。
ここでクラウンの新型セダンについておさらいしておくと、プラットフォームはクロスオーバーとスポーツがエンジン横置き用のGA-Kを用いるのに対して、セダンはエンジン縦置き用のGA-Lを採用。パワートレインにしても、スポーツがトヨタ独自のハイブリッド・システムであるTHS(厳密にはTHSⅡ)を用いるのに対し、車重がスポーツより200kg近く重いセダンはTHSに4段ATを組み合わせたマルチステージ・ハイブリッドを搭載。さらにMIRAIと基本的に同じ燃料電池を用いるFCVも設定される。
セダンのボディ形状はクロスオーバーと似たファストバック風4ドアとなるが、ボディの前後端がなだらかに下降するクロスオーバーに対して、セダンはどこまでも水平基調を保つことで伸びやかさを強調。また、セダンに採用された縦格子のフロントグリルは落ち着きや風格を表現しているともいえる。
ハイブリッドモデルから試乗開始
最初に試乗したのはハイブリッドシステムを搭載したZと呼ばれるグレード。
スポーツから乗り換えると、セダンのほうがサスペンションストロークに余裕があって、ゆったりとした乗り心地であることに気づく。セダンの方が快適重視とされて当然だから、これは納得のできる設定だ。そのうえで、ゴツゴツ感が少ないのにボディがしっかりフラットに保たれるというスポーツと同様の乗り味にまとめ上げられていることもよくわかる。プラットフォームが異なっているのに、よくもここまで似たテイストに仕上げたものだと感心させられるほどだった。
けれども、しばらく走るうちに「おや?」と思うことがあった。少し強めの衝撃がタイヤにくわわったとき、足回りのどこかが衝撃を受け止め切れていないというか、衝撃がくわわったあとで微振動するような感触が認められたのだ。エンジニアに質問したところ、どうやらサスペンションに用いられているゴムブッシュに原因があるらしいことがわかったが、その症状は重くなく、一般的なドライバーであればほとんど気づかない程度と思われたので、あまり気にする必要はないだろう。
いっぽうでマルチステージ・ハイブリッドがもたらす動力性能は十分に力強いものの、駆動系が原因と思われるドスンッというショックがときどき伝わってきたほか、アクセルペダルを強く踏み込んだときに思いのほかエンジンノイズが明確に聞こえることがあった。ショックにしてもノイズにしても、従来式のハイブリッドシステムを備えたスポーツでは感じなかったので、より上質であるべきセダンとしてはやや残念な仕上がりといえる。
もうひとつ残念に思ったことをお知らせすると、後席はロングホイールベースの恩恵で膝まわりのスペースはゆったりしているのに、ルーフ後端が下降している影響でヘッドルームはギリギリ。いや、オプションのパノラマルーフを装着した試乗車では、身長171cm(ただし座高はやや高め)の私でさえ、姿勢によっては髪の毛が天井に触れることがあるほど、頭上の空間は限られていた。
そこで、「なぜ、セダンでファストバック風のデザインとしたのか?」と私が技術陣に質問すると、「新しいセダンのカタチを追究したかった」という主旨の答えが返ってきたが、クーペライクなスタイリングのクロスオーバーがすでにラインナップされているのだから、セダンはもっとリアのヘッドルームを重視するデザインにしてもよかったのではなかろうか。この疑問はついに解消されることがなかった。