本命はFCVか?

 そんな落胆を見事に吹き飛ばしてくれたのが、燃料電池仕様のセダンだった。こちらはハイブリッドと違って後輪を電気モーターで駆動するため、負荷によってエンジンのノイズレベルが変化したり、変速ショックのようなものを発生させることは皆無。しかも、乗り心地はFCVのほうがはるかにソフトなうえに微振動やショックを伝えることもなく、セダンとして完璧といいたくなる洗練度だった。

 ちなみに、ハイブリッドとFCVで車重は30kg違い(ハイブリッドのほうが重い)。前後重量バランスは、ハイブリッドが30kgフロントヘビーでFCVは60kgリアヘビーという違いがあるものの、決定的な差とはいえない。敢えていえばハイブリッドはオプションの20インチ・タイヤ、FCVは標準の19インチ・タイヤを履いていたことが違いといえば違いだが、その程度のことでここまで大きな差が生まれるとは大いに不思議だ。

 不思議といえば、すでにMIRAIがありながら、クラウン・セダンに敢えてFCVを設定したことにも疑問が残る。クラウンにFCVを設定した理由を、関係者は「トヨタが水素エネルギーと真剣に取り組んでいることを示すため」と説明したが、クラウン・セダンとMIRAIは全長で55mm、ホイールベースで80mm異なるのみ。しかも、ファストバック風のプロポーションは2台で共通なので、個人的には明確な差が見いだしにくかった。

 やはり、クラウン・セダンはノッチバックとして十分な後席スペースを確保すべきだったのではなかろうか。そのうえで、次世代のセダンらしいスタイリングを追求するという手もあったはず。ここのところ美しいスタイリングを次々と生み出しているトヨタのデザイン部門であれば、そんな新しい提案ができたのではないかと、ついつい期待したくなる。

 いずれにせよ、MIRAIとの関係があまりに近く、後席のヘッドルームが不足気味ということを除けば、FCV仕様のクラウン・セダンはまったく文句の付けどころがなかった。なにしろ、「ああ、もしかしたら自分もFCVを買うことがあるかもしれない」と私に思わせたくらい、FCV仕様のクラウン・セダンは魅力的だったのである。