「オリンピックに行くよ」

女子フリーで演技する三宅咲綺 写真=西村尚己/アフロスポーツ

 三宅咲綺(みやけ・さき)はショートプログラム、フリーと2本そろえて自己ベストを更新、9位と初めてベスト10入りを果たした。

 ここまでの道のりは長かった。

 高校1年生でシニアに移行し、3年生だった2020-2021シーズン、強化指定選手に選ばれた。海外の大会に出る機会も考えられたが、コロナ禍のもと、派遣されることはなかった。腰椎分離症も発症し全日本選手権出場を手にすることもできなかった。

 スケートをやめようと考えたこともある。その中で出会った鈴木明子に悩みを話すとさまざまな話をしてくれた。その中で意欲を取り戻した三宅だったが、思うように取り組めない練習環境などに苦しんだ。そのとき、手を差し伸べてくれたのは坂本だった。そして拠点を岡山から、大学2年生で坂本らのいる神戸に移す決断をする。

 3シーズン目を迎えた今季、西日本選手権優勝、全日本選手権と、花は開いた。

 その今シーズンの変化と成長の要因をあげる。

「中野先生の『オリンピックに行くよ』という言葉です」

 今までと異なる一段高い目標に、「そのためには何が必要か」と真剣に考えそのために取り組んだ。

 もう1つは、初めてのアイスショーとなった「滑走屋」だ。連日、ハードな合宿をおくり準備を進めた。ときに16時間、氷上にいたこともあるほどだ。

 それは大きな刺激となった。

「そこまでしないと人前で滑ることはできない、という(高橋)大輔さんのプロの根性を見せてもらいました」

 出演後、練習への取り組みは一段、密度が増したという。

 今回の成績で、強化選手への復帰がたしかなものとなった。

「3年間、4年間、強化選手に戻ると言ってきて、達成できて、この1年頑張ってきてよかったなと思います。(現在の)強化選手と比べたらジャンプの難易度も低いですけど、種類を増やしたら戦えるんじゃないかなと思います」

 松生と三宅ばかりではない。昨年、フリーで12位に沈むなど全日本選手権で悔しい思いを味わってきた山下真瑚はフリーの好演技で200点を超えて6位に。近年、苦しんできた河辺愛菜は、ショートプログラムを控えての公式練習で接触し右腕を負傷。だがフリーではジャンプすべてを着氷、空間を支配するかのような演技をみせた。これからへのたしかな手がかりをつかんだだろう。

 そのほかにも、数々の選手が印象深く余韻の残る演技をみせた。

 この舞台に懸ける思いが交錯した、全日本選手権だった。