老化抑制に向けて様々な技術の研究が進められている=イメージ(写真:Leszek Glasner/Shutterstock)

 既存の学問領域にとらわれない研究を推進するフォーラム「Scienc-ome」に集う研究者が未来を語る連載。今回のテーマは、老化制御の可能性を秘めた細胞内システム「オートファジー」である。

 オートファジーは、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士の基礎研究がブレークスルーとなった。その研究の流れを汲む奈良県立医科大学の中村修平教授の関心は「老い」に向けられている。

 なぜ生き物は老い、衰えていくのか。そんな生命の神秘を解明し、成果を社会に還元するために、奈良県立医科大学は今年4月、オートファジー・抗老化研究センターを立ち上げた。センター長に就いた中村教授に、オートファジーについて話を聞いた。

(竹林 篤実:理系ライターズ「チーム・パスカル」代表)

Scienc-ome」とは
新進気鋭の研究者たちが、オンラインで最新の研究成果を発表し合って交流するフォーラム。「反分野的」をキャッチフレーズに、既存の学問領域にとらわれない、ボーダーレスな研究とイノベーションの推進に力を入れている。フォーラムは基本的に毎週水曜日21時~22時(日本時間)に開催され、アメリカ、ヨーロッパ、中国など世界中から参加ができる。企業や投資家、さらに高校生も参加している。>>フォーラムへ

不用品を再利用する細胞内リサイクルシステム

 ヒトの体内では常に新陳代謝が行われている。そのおかげで組織は若々しく保たれる。一説によれば、ヒトの赤血球は1秒間に約300万個つくられ、その中にあり酸素運搬に関わるタンパク質のヘモグロビンは、毎秒約1000兆個もつくられているという。

 ひとたびできたタンパク質は決して不変の存在ではなく、常に壊れては新しくつくり直されている。その仕組みが、オートファジーである。

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「壊れたタンパク質を細胞内にそのまま放置しておくと、ゴミとして溜まっていき不具合が起こります。そのような事態を招かないために、細胞内には不用品を回収して分解し、再利用できるものをリサイクルするシステムが備わっています。この一連のシステムをオートファジーと呼びます」

 中村教授はこう説明する。このオートファジーの仕組みを遺伝子レベルで解明したのが大隅良典博士であり、その研究をサポートした1人が現・大阪大学特任教授の吉森保博士だ。中村教授は2016年から大阪大学の吉森研究室で助教として研鑽を積んだ後、現在のポストに就いた。

中村 修平教授・センター長(なかむら しゅうへい)
1979年、大分県生まれ。2003年、北海道大学理学部生物科学科卒業、2008年、同大学院博士課程修了、博士(理学)。2008年より基礎生物学研究所、2011年よりMax Planck Institute for Biology of Ageingにて研究員を務めた後、2016年より大阪大学大学院医学系研究科の吉森教授研究室でオートファジーと老化の研究に携わる。2023年8月より奈良県立医科大学医学部医学科生化学講座教授、2024年4月よりオートファジー・抗老化研究センター長を兼任。

 では、具体的にオートファジーとはどのような働きをする仕組みなのだろうか。