
既存の学問領域にとらわれない研究を推進するフォーラム「Scienc-ome」に集う研究者が未来を語る連載。今回は、地上最強の生物「クマムシ」の神秘に迫る。研究者は、慶應義塾大学先端生命科学研究所の荒川和晴教授。究極の環境でも生命を維持できるクマムシの「乾眠」を研究することで「生と死のはざま」を解明し、「生きている」とはどのような状態かを定義することに挑む。
(竹林 篤実:理系ライターズ「チーム・パスカル」代表)
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身近にいる地球最強の生物クマムシ
水がなくても平気で生き続ける。放射線を浴びても耐えられるうえ、絶対零度まで冷やしても死なない。体長は1mm以下と肉眼では見えないほど小さいにもかかわらず、まさに地上最強と呼ぶのがふさわしいクマムシ。緩歩動物門に属する4対8本の足を持つ生き物は、意外に身近な存在だ。
慶應義塾大学先端生命科学研究所の所長、荒川和晴教授は「地球上のどこにでもいる。深海からヒマラヤ、極寒の南極でも見つかる。あるいは近所の公園でも探せばたぶん見つかるはずで私も新種を発見しています。そんなありふれた生き物です」と、クマムシの生態を語る。

ここ数年、ニュースで取り上げられるなど、一般的な知名度も高まってきたクマムシの存在は18世紀には知られていた。17世紀に顕微鏡を発明したレーウェンフックは、雨どいの乾いた堆積物に水をかけて顕微鏡で覗くと、生き物が見つかり驚いたと記録している。これがクマムシだったかどうかは明らかではないが、少なくとも乾眠する生き物の存在は早くから知られていたようだ。