世界でも類を見ない研究所、創薬支援も視野に

 中村教授が取り組んでいるのは、オートファジーに関する基礎研究である。オートファジーの研究者は、国内外に数多くいる。けれどもオートファジーと老化の関係に特化した研究は、それほど多く行われてはいない。中村教授は、「オートファジーと老化に特化し基礎研究と臨床研究を医学部と連携して進められる研究機関は、今のところ世界でも本センターだけだと思います」と説明する。

 中村教授は2023年8月に奈良県立医科大学に移ってきた。「私の研究のテーマや体制などについて学長と相談したところ、老化はさまざまな疾患に絡み、抗老化は極めて重要なテーマだから全学で取り組もうと話が進み、オートファジー・抗老化研究センターの設立が12月に決まり、早くも今年4月に開設されました」

オートファジー・抗老化研究センター設立記念のキックオフシンポジウム(2024年4月16日開催)では、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典教授(写真上)や吉森保教授(写真下)らが講演を行った。

 このスピード感からは、単科大学ならではのフットワークの良さが感じられる。奈良県立医科大学ではMBT(Medicine-Based Town=医学を基礎とするまちづくり)と、MBE(Medicine-Based Engineering=医学を基礎とする工学・産業創生)を打ち出している。

「新たなセンターでの研究成果とエビデンスを基にした産業界からの参入を期待しています。核酸医薬分野での創薬やドラッグスクリーニング(創薬につながる化合物の選定)などに研究成果を活用できるのであれば、すべて提供するつもりです。製薬メーカーとの研究連携の可能性も十分にあります」

 仮に製薬メーカーが、オートファジーを活性化し、老化を抑制する物質の探索に興味がある場合、センターとの協働による製品化も夢ではない。

「研究者としては、オートファジーの活性化が寿命を伸ばすメカニズムを解明したい。それだけではなく、研究成果を社会に還元し、多くの人が健やかに長生きできるように貢献したい。センター長としては、多面的な視点での活動が必要と心得ています」

 センター発の研究成果によって、老化が抑制される未来に期待したい。

竹林 篤実(たけばやし・あつみ) 理系ライターズ「チーム・パスカル」代表
1960年、滋賀県生まれ。1984年京都大学文学部哲学科卒業、印刷会社、デザイン事務所を経て、1992年コミュニケーション研究所を設立し、SPプランナー、ライターとして活動。2011年理系ライターズ「チーム・パスカル」設立。2008年より理系研究者の取材を開始し、これまでに数百人の教授取材をこなす。他にも上場企業トップ、各界著名人などの取材総数は2000回を超える。著書に『インタビュー式営業術』『ポーター×コトラー仕事現場で使えるマーケティングの実践法がわかる本(共著)』『「売れない」を「売れる」に変えるマーケティング女子の発想法(共著)』『いのちの科学の最前線(チーム・パスカル)』

■連載の他の記事

ワクチンや薬で老化細胞を除去!アルツハイマー病、動脈硬化などを狙い開発進む…5年後めどに臨床応用へ(2024.3.31)
ゲノム編集で難病治療と若返り、技術精度100倍以上!九大発ベンチャーが挑む
500年生きる深海ザメが握る不老の秘密、人は寿命250年なら身長4メートルに?
人の寿命は250年に!解明進む老化の正体、あと20年で「若返り」も夢ではない