WHILLの新サービス発表の様子(写真:筆者撮影)
  • ベンチャー企業のWHILLが、商業施設などで電動車いすを無人で貸し出せるサービスを法人向けに始めた。
  • こうした「マイクロモビリティ」の分野には大手自動車メーカーも取り組んでいるが、その歩みは極めて限定的だ。
  • ベンチャーにできて、なぜ自動車メーカーには無理なのか。その理由を考察する。

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 電動車いすなどの開発を手がけるベンチャー企業WHILL(ウィル)は8月7日、新サービスを発表した。足の不自由な障害者や高齢者など向けに、商業施設などがWHILLの電動車いすを無人でレンタルできるようにする法人向けサービスだ。

 これまでは、商業施設などでWHILLの各種モデルをレンタルする場合、カスタマーサービスデスクなどを設置して有人で対応する必要があった。今回、電動車いすの貸出場所に人員を配置しなくても、利用者がスマートフォンのアプリを操作してレンタルできるようにした。

 施設側は、電動車いすを貸し出す場所の選択肢が広がり、人手不足の解消にもつながる。例えば、商業施設の駐車場に無人貸出スペースを設置すれば、ユーザーはクルマを止めた後、すぐに電動車いすを自分でレンタルして施設内にスムーズに移動できるようになる。

 施設側の導入コストは初期費用10万円、保険・点検サービス込みで電動車いす1台につき、モデルに応じて月額2万円、または2万3000円。傷害保険や施設賠償責任保険なども含まれ、定期点検は半年に1度実施する。

 WHILLは、こうした電動車いすのレンタルサービスや空港での自動運転サービスなどを「モビリティサービス」として事業展開している。また、「モビリティセールス」として電動車いすの販売事業もある。潜在的な需要は、モビリティサービスで国内10万カ所、モビリティセールスで1200万人あるという。

 モビリティサービスでは、ショッピングモールなどのほか、レジャー施設・動物園・リゾートホテルといった行楽地での電動車いすの利用を想定し、施設運営会社など法人向けにサービスを提供している。すでに、ホテルやテーマパーク、ショッピング施設、美術館・博物館、観光地・道の駅、公園・動物園、スポーツ施設という大きく7つの業態で導入されている。

 記者会見では、長野県蓼科高原にある「東急リゾーツ&ステイ」での導入効果を紹介したほか、千葉県内の商業施設「Shapo(シャポー)市川」で行った実証試験について説明。同施設を運営するジェイアール東日本都市開発が導入した経緯やユーザーへのアンケート調査内容を報告した。

 ジェイアール東日本都市開発によれば、今後は「エキナカ」「エキマエ」「エキカン(高架下)」などでもWHILLの活用も視野に入れた街づくりを模索したいという。

 WHILLの電動車いすのような、徒歩や自転車での移動を置き換えるような移動手段は、「マイクロモビリティ」と呼ばれる。WHILLはベンチャー企業だが、同社の事業展開と比べると、マイクロモビリティ領域での四輪車や二輪車大手メーカーの動きは鈍い。

 なぜだろうか。