
米国がリセッション(景気後退)に陥るとの懸念が高まっている。トランプ関税により物価上昇も避けられないとみられ、市場では物価上昇と景気後退が同時に起きる「スタグフレーション」に突入する警戒感が広がりはじめた。すでに金融市場では「トランプトレード」の熱狂は冷め、「リセッショントレード」へとムードが悪化している。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
3月12日に発表されたCNNの世論調査結果によれば、回答者の56%がトランプ大統領の経済政策に否定的だった。この数字はトランプ氏の1期目以降で最低だ。トランプ氏の関税政策への不満が主な要因である。
「株価が下落すれば政策は変わる」との観測があったが、株価急落後もトランプ氏が政策を変更する姿勢を示していない。
注目すべきは、経済の舵取り役を担うベッセント財務長官の発言だ。
ベッセント氏は3月16日に放映されたNBCテレビのインタビューで、最近の株価下落について「これは健全な調整であって、政策を遂行すれば、長期的には素晴らしい結果を残すだろう」と楽観的な見解を示した。
ベッセント氏は相互関税についても「速やかに対米関税が引き下げられ、米国からの輸出は増える」と述べ、「アメリカン・ドリームは中国から輸入される安価な製品を買えることではない。家族が住む住宅が買え、子供たちが自分たちより良い暮らしをすることだ」との持論を展開した。
「米国を大改造する過程で痛みは避けて通れない」というわけだ。
このことからわかるのは、トランプ政権が米国を再び偉大にするための計画を本気で推進しようとしていることだ。
だが、関税政策の副作用(物価上昇の再燃)への懸念は強まるばかりだ。今後のインフレ懸念から消費者の経済状況に関する信頼感は既に悪化している。