ウナギを持続可能な食材にするには完全養殖が不可欠か(写真:sasazawa/Shutterstock)
  • 「土用の丑の日」に食卓に並ぶウナギの99%以上が養殖で、ニホンウナギは絶滅危惧種に指定されている。
  • 現在流通している養殖ウナギは天然の稚魚を採取し育てたものだが、天然の稚魚は漁獲量の減少が懸念されている。完全養殖が実現すれば、持続可能性が大きく向上する。
  • 近畿大学水産研究所は2023年10月、大学として初めてウナギの完全養殖を達成したと発表した。孵化した「近大ウナギ」の仔魚は、その後どうなった? 近畿大学水産研究所・田中秀樹特任教授に完全養殖の現状と課題を聞いた。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト) 

浦神実験場で人工孵化して養成した親魚群(近畿大学水産研究所提供、以下同)

激減する天然の稚魚、完全養殖への期待高まる

──近畿大学水産研究所は2023年10月に、「ウナギの完全養殖」に成功したと発表しました。まず、完全養殖とはどのような技術を指すのか、改めて教えてください。

近畿大学・田中秀樹特任教授:完全養殖とは、人工孵化させたウナギが親となり、産み落とした卵が孵化し、仔魚になり稚魚、そして成魚になる、というサイクルを世代を超えて継続させることを指します。

 現在、日本で流通している99%以上のウナギが養殖モノですが、その全てが天然の稚魚を採取して、蒲焼サイズのウナギまで育てています。

 問題は、天然のウナギの稚魚の漁獲量が激減していることです。どれくらい減っているかは評価が難しいのですが、ニホンウナギが国際自然保護連合で絶滅危惧種に区分されていることから分かるように、人の手で卵から成魚まで育てる完全養殖技術の発展が望まれています。

 日本では1960年代から飼育下で卵を人工孵化させる研究を続けてきましたが、これに初めて成功したのが1973年の北海道大学です。

田中 秀樹(たなか・ひでき)近畿大学水産研究所 特任教授 1957年、大阪府生まれ。農学博士。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。水産庁養殖研究所研究員、水産庁養殖研究所主任研究官、水産総合研究センター養殖研究所主任研究官、水産総合研究センター養殖研究所グループ長を歴任し、現職
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 ただ、問題は卵から孵化した仔魚(プレレプトセファルス)が長生きしないことでした。人工飼育下では、どんな餌を与えても、ほとんど食べなかったのです。80年代、90年代と様々な研究機関が人工種苗(養殖用稚魚)生産技術開発に取り組みますが、生存期間は17〜18日程度。当時は研究者も途方に暮れていました。

 ウナギは、他の人工的に生産されている魚種とは違い、海でどのように餌を食べているかがいまだにはっきりしていない魚です。ウナギの仔魚は外洋の中層200m前後で生活し、マリンスノーを食べていると言われていますが、その成分が何か、どんな食べ方をしているか、誰もまだ見たことがないのです。

出所:共同通信社
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 ブレイクスルーが起きたのは、(人工孵化した仔魚も)サメの卵なら食べる、ということが分かったことです。当時、私も所属していた国立の水産研究・教育機構がこれを発見し、2002年にシラスウナギへの変態を実現しました。2010年には成長したウナギから受精卵、孵化仔魚が得られました。

 近畿大学水産研究所も、2010年に世界で初めてウナギの完全養殖を成功させた水産研究・教育機構の技術をベースに、浦神実験場(和歌山県那智勝浦町)で実験を続けています。

 ただ、我々は私立大学の研究機関であり、国の設備や資金力には到底及ばないほど、小さな規模でこれを実現させたのです。

──完全養殖で育ったウナギが食卓に並ぶ日はいつ頃になるのでしょう。