(写真:Wako Megumi/Shutterstock)

「50代は老いの思春期」と言われる。体力の衰えや脳の老化現象もはじまる。男も女も性ホルモンが減少し、疲労感や倦怠感、抑うつ症状といった「更年期障害」が生じる場合も少なくない。精神科医の和田秀樹氏は、こうした状況は「うつ病」になる可能性を高め、放置しておくと症状を悪化させてしまうと警鐘を鳴らす。うつ病にならないためには何をすべきか。「男性ホルモン」がカギを握っている。

(*)本稿は『50代うつよけレッスン』(和田秀樹著、朝日新書)の一部を抜粋・再編集したものです。

■和田秀樹の「50代うつよけレッスン」
(1)「うつ病」は50代が危ない!男性ホルモンの減少が記憶・判断力の低下、疲労感・不眠・イライラ・抑うつ感などを招く
(2)50代になったら「肉」を食え!注射や塗り薬などで男性ホルモン補充もいいが、食生活でも若さを取り戻すには←いまココ
(3)肉だけじゃない!ホルモンを活性化させる食べ物とは?がんやうつを予防するにはコレステロール値は下げてはいけない 

ホルモン補充療法の効能

 ところで、女性が更年期障害の診断を受けたときは、一般的には不足している女性ホルモン(エストロゲン)を補うホルモン補充療法を行います。

 欧米では女性の半数が受けているほど一般的なホルモン補充療法ですが、日本ではまだその数は多くありません。ホルモン補充療法によって、乳がん発症のリスクを心配する人が多いからだと言われています。

 しかし、最近の大規模調査では、ホルモン補充療法が乳がんのリスクを増加させることはないという報告が多数示されています。

 2017年の日本産婦人科学会のガイドラインでも、新しいタイプの補充療法はむしろ大腸がんのリスクを下げるとしています。

 また、ホルモン投与の前には検査で乳がんの有無を入念に調べ、投与後も定期的に検査を行いますから、むしろ定期的に検査を行うことで、がんによる死亡率が下がるとも言われています(ただし、乳がんの既往歴がある場合は治療を受けられないことがありますので、医療機関での確認が必要です)。

 ホルモン補充療法で不足している女性ホルモンを補ってホルモンバランスを整えると、更年期の症状から解放されることも多く、若さと健康を保つこともできますから、辛い症状に悩んでいる人は婦人科で相談してみることをお勧めします。

 一方、男性のLOH症候群でも、ホルモン補充療法に高い効果があります。

女性でも男性ホルモンを補充し意欲を取り戻すケースも

 注射や塗り薬などでテストステロンを補うことによって、更年期障害の症状を緩和させるのです。

和田 秀樹(わだ・ひでき) 1960年、大阪府生まれ。精神科医。立命館大学生命科学部特任教授。1985年、東京大学医学部卒業。長年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。主な著書に、『感情的にならない本』(PHP文庫)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『プラグマティック精神療法のすすめ』(金剛出版)、『70代から「いいこと」ばかり起きる人』『自分が高齢になるということ』(共に朝日新書)、『疎外感の精神病理』(集英社新書)など多数。

 日本では、主に泌尿器科や男性更年期外来、メンズヘルス外来などの医療機関でこの治療法を受けることができます。その場合も前立腺がんなどホルモン依存性のがんを患っている人は治療を受けられないといった禁忌項目があるため、医療機関での確認が必要です(基本的に、40歳以上で自覚症状がある場合は保険適用になりますが、日本ではホルモン補充療法を受ける人が少ないのが現状です)。

 これといった自覚症状がなくても、アンチエイジングが目的で、自費診療でホルモン補充をする場合もあります。

 私自身も、抗加齢医学の国際的権威であるクロード・ショーシャ博士の指導の下で男性ホルモン補充療法を行っていますが、ホルモン補充を経験した人の多くが「すぐに意欲が出てきた」「元気になった」「頭が冴えてきた気がする」といった即効性を認めています。サプリよりもはるかに効き目があります。

 意欲が高まるだけでなく性欲が回復することも多いため、男性ホルモン補充療法にはリピーターも多いです。

 意外に思われるかもしれませんが、この男性ホルモン療法は女性にも行われています。少量の男性ホルモンを足すことによって、女性にも意欲が出てきて元気になるのです。

 実際に私のクリニックでも、男性ホルモン療法を行ったところ、バリバリ仕事ができるようになって喜んでいる女性の経営者やクリエイターの方もいます。

 自費診療なので金額は安くありませんが、男女共に若々しく人生後半を過ごすための投資だと考えれば、検討の余地はあると思います。