「老後2000万円」問題に注目があつまっている。その解釈や是非はいったん置いておいたとしても、一つ明らかなのが、誰しも「定年後」や「老後」に大きな不安を抱えているという事実だ。
より良い人生を生きるために、定年をどう考えるべきなのか。いま、すべきことは何なのか。
アドラー心理学研究における第一人者で『嫌われる勇気』などのベストセラーがある岸見一郎氏による「定年をどう生きるか」。
※本稿は『定年をどう生きるか』(岸見一郎・著/SBクリエイティブ)より一部抜粋・編集したものです。
定年のための準備とは
「不安」の正体がはっきりすれば、定年を待たずとも、今から何をしなければならないかがわかります。
今考えないでいいことを考えないこと、今考えないといけないことだけを考えることが定年の準備になります。これは、人生をどう見るかということにも関わってきます。
今から準備なしに定年後の人生を始めるとしても、それほど難しいことをしなければならないわけではありません。ただし、自分の考えを大きく変えなければならないので、長い間馴染みだった考えを変えるためには勇気が必要です。
「勇気」という言葉を使ったのは、従前とは違う考えや生き方を採用しようとすると、次の瞬間に何が起こるか予測できないという不安が伴うからです。多くの人は今までの考え方、生き方が不自由で不便なものであることがわかっていても、馴染みのものに固執していたいのです。
少し先取りしていえば、人は「今ここ」を生きているのですから、未来のことを今考えても意味がないということです。意味がないというより、今、未来のことを考え、未来のことについて何かができるわけではありません。
未来は「未だ来てない」のではなく「ない」からです。起こることは起こりますが、起こらないことは起こりません。自分の力でできることもあればできないこともあります。
大抵のことは「今ここ」ではどうすることもできないので、できないことについて今何かしようと思わなくていいのです。
定年に準備は必要かという時の準備とは、未来に向けてではなく、「今のための」準備です。
今は「未来のことを考えない」というのが生き方の指針になります。不安は未来に関わる感情ですから、未来を手放せば不安から自由になることができます。定年後に何が起こるかは未来のことなので、そのことについて今考えることはできません。今考えられることがあれば、それは未来ではなく、「今」する準備のことです。
あるいは、このようにいうこともできます。