今回は、今年のノーベル賞解説で一番リクエストの多かった「mRNAワクチン」を取り上げます。
2023年のノーベル医学生理学賞は新型コロナウイルスワクチンの開発に決定的な威力を発揮したmRNAワクチン技術の確立者、ドイツのビオンテック社顧問で米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ客員教授(68)と、同大学のドリュー・ワイスマン教授(64)に贈られました。
ノーベル賞主催者側のカロリンスカ研究所は「全世界で130億回も投与され、何百万人もの命を救った。社会が通常に戻ることを可能にした」と受賞業績を評価しています。
130億というのは、地球上の全人類人口の2倍近い凄まじい数です。
他方、現在も日本国内では「ワクチン陰謀説」的な代物が、ネット上を中心に根強くささやかれ続けている。
例えばこの読売新聞の報じるケースでは、「闇の政府」陰謀論を信じ込む母親に家族が巻き込まれ、いろいろ大迷惑という、およそ笑えない等身大の悲劇も決して少なくないらしい。残念なことです。
問題の本質は、日本社会全体の科学リテラシーの低さ、もっと言えば大人の本音の中にサイエンスの新たな知見が本当には根を下ろしていないことにあると思われます。
衆参両院議員を筆頭に、政治家全般の科学的な知見の水準も、AIに関する発言などを見るとおよそ心許ない。
ということで、今回はノーベル医学生理学賞を入り口に、日本の直面する社会的リテラシーのデバイドを考えて見たいと思います。
mRNAワクチンとは何か?
あまり強調していませんが、しばらく前から大学内で、私は生命倫理の教授職を兼ねており、そこからの仕事がいくつかあります。
「新型コロナワクチンと治療薬」のような本を出したり、東京都世田谷区のコロナ後遺症解析の責任者を務めたりしたのも、そのような背景があってのこと。
今回の受賞業績についても拙著で詳述した内容をもとに、以下平易に記してみましょう。
10年後に読んで役立つ内容を職掌から記しましたが、残念なことに現在は流通していないので、その分を補いたいと思います。