頭の中に手を入れて頭蓋骨を触る感覚とは
小鷹:錯覚を悪用するということを考えたことはなかったですね。ただ、実経験として、錯覚を用いて人を恐怖に陥れることは可能だと思っています。
2022年に韓国の展示会に出展したときのことです。僕らの研究室は「XRAYHEAD(エックス・レイ・ヘッド)」という錯覚作品を出展しました。これは当時、研究室の院生だった今井健人に主導してもらっていた研究の成果です。
この「XRAYHEAD」では、実験者が体験者の頭の中に手を入れて頭蓋骨を触るという錯覚を体験することができます。ちょっと自慢になってしまいますが、この錯覚、かなり評判がよくて国内外のコンペで大きな賞をいくつか受賞しています。
韓国の展示会では、展示環境がとてもよかった。というのは、これまでの展示では暗室でクローズドな環境でやっているのですが、この展示会では、会場全体で光を落としてくれていたんです。おかげで、現実とシームレスなかたちで「XRAYHEAD」を多くの人に体験してもらうことができました。
実際に頭の中に手が入れられている、頭蓋骨を触られているという錯覚を起こした人は、かなり多かった印象を持っています。
……で、実際に体験して頂いた人の中で、非常に高い錯覚感度を持っていらっしゃる方がいて、体験中に明らかに恐怖している表情で、フリーズしてしまった。終わった後もその場から動けないで、少し震えていらっしゃった。
そのとき僕は、からだの錯覚はやり過ぎたら取り返しがつかない、人にトラウマを植え付けてしまうようなことなのかもしれないと思い知らされました。ちなみに、その方とは、体験後すぐにアフターフォローとして、錯覚の個人差の説明などの会話をして、最後には打ち解けることができたので安心しました。
からだの錯覚はまだまだ研究段階です。でも、将来的にそれをメタバースなどに実装していくとなった場合、法整備や倫理的な議論のようなものは必要不可欠だと感じています。