統一教会、その勧誘の手口

上祐:大江さんは、夢の中に文鮮明が出てくると書いています。夢の中で文鮮明とよく相撲を取り、いつも自分が投げ飛ばされてしまう、と。また、自転車をこぐ夢では、文鮮明が背中からのしかかり、「もっとしっかりこげ」と耳元で命令すると書いています。

 文鮮明から逃げようと山道を駆け上がると、山頂にビルがあり、エレベーターから出てきた文鮮明が「待っていたぞ」と言うそうです。「理屈ではなく、実感の世界です」と書いていますが、彼自身、まだかなりスピリチュアルな状態で、夢が現実に影響を与えているということだと思います。

 オウム真理教を含めた神秘主義的な宗教では、神秘体験を重視します。統一教会にもそうしたものがあるようで、それが「神霊体験」であると私は一部の信者から聞いています。

 1980年代から統一教会の霊感商法の問題に関わっている郷路征記弁護士は、統一教会の勧誘の手口を解説しています。それによると、勧誘のターゲットとして、①お金を持っている、②素直である、③スピリチュアル・宗教心がある──という条件が揃った人を選び、ビデオセンターなどに連れていくなどの段階を踏み、最後は神秘体験(神霊体験)を経て入信させるそうです。

 おそらく、大江さんはそうしたものを受け入れるスピリチュアルな体質で、なおかつ神霊経験も経たために、普通の人から見たらおよそ絵空事のような文鮮明の話を信じています。私のオウム真理教の経験から言っても、神秘体験や神霊体験があると抜けられないのです。

 ただし、神秘体験、神霊体験と表現すると、本当の神につながった体験というイメージを持ってしまいますが、実際には本当に神につながったかどうか、合理的で科学的な証明が十分にあるわけではありません。

 この合理的な根拠に基づかない体験によって信仰が深まり、カルト宗教を信仰してしまうことは少なくありません。そのため、学術的には変性意識体験と表現されることが多く、また最近はそうした宗教的な体験は(神の力ではなく)脳神経学的に説明できるとする科学者の研究も存在します。

──霊感商法のような、それまで統一教会になかった新しい経済活動(カネ稼ぎ)の命令を拒否できなかったのは、神霊体験を経て、統一教会の教義から抜け出せなくなったからだと大江さんは語っています。上祐さんも、オウム真理教時代に「やりたくないけれど、もはや抜け出せないからやるしかない」という感覚があったのでしょうか。