嘘をつくことが宗教的に善とされる場合

上祐:大江さんと似た感覚はありました。オウム真理教では、まずヨガを通して神秘体験を経験します。そうすると、教祖が特別な存在になる。こうした期間が1984年、85年のオウム真理教の創成期から87年頃まで続きました。

 ところが、1988年あたりから麻原によるヨハネ黙示録の解釈が始まり、「ハルマゲドンは近い」と言い始め、1989年になりると「総選挙に出る」と口にするようになりました。信者にとっては、修行や信仰内容の大きな変化でした。ただ、この時点では一般的に言うところの洗脳状態にあったため、拒むことは難しかった。

 本書の中には、文鮮明が日本の統一教会の信者たちに、「君たちは(経済活動を)やるのか、やらないのか」と迫った事実も記されています。伝道活動のために統一教会に入った大江さんも、「経済活動をやれ」「グッズを売れ」という命令に関しては戸惑ったと書いています。この辺はオウム真理教が選挙に出た時の信者の戸惑いと似ていると思います。

 統一教会が「販売活動」を始めた当初は朝鮮人参を売るということで、価格も粉末の十包みが入った1セットが7000円や8000円というレベルでした。ところが、だんだん値段が上がり、壺や多宝塔を高額で販売する頃になると、完全に詐欺になっていました。

 実際、霊力があるという理屈で壺を高額で販売する時には、信者が購入者に関する情報を事前に集めておいて、その情報を霊能者役に伝え、購入者の様々な事情をあたかも言い当てるような演出を入れて、すごい力を持った人だと信じ込ませて買わせました。こういうことが大問題だったと大江さんは告白していますね。

──本書には明確には書かれていませんが、文鮮明は「稼げ」と言うだけで実際の稼ぎ方は信者に任せたのか、それとも強烈な販売方法を指示したのか、どう思われますか?

上祐:オウム真理教の経験も含めて私が思うことは、教祖が示唆しなければ、信者が自分の判断で嘘をついたり、騙したり、脅かしたりして物を売ることは心理的にできないということです。イスラム教でも、仏教でも、統一教会のようなキリスト教系の教団でも、原則的には嘘をつくことは禁じられています。

 つまり、本来宗教の信者は、普通の人以上に嘘をつかないように気をつけていると言えます。

 ところが、その例外として、嘘をつくことが宗教的に善とされる特別な場合があります。仮に幹部がこうした詐欺的な販売方法を思いついたとしても、それが宗教的に善なのかどうかは、教祖に聞き、承認をもらう必要があると思います。

 加えて、霊感商法は長らく社会的に問題視されてきましたから、文鮮明のところにも、その情報は伝わっていたはずです。教祖である文鮮明が、それは問題だからやめろと言っていたならば、全信者がとうの昔にやめていたと思います。

──麻原彰晃も強烈な命令を直々に出したのですか?