共和党のトランプ氏がアメリカの次期大統領に就任する。著書『テクノ・リバタリアン』などで米国社会を鋭く分析してきた作家の橘玲氏は、トランプ勝利には「18〜29歳の若者と黒人やヒスパニックなど有色人種の支持」が大きな原動力となったと分析する。民主党のハリス氏が訴えた「政治的正しさ」のナラティブ(物語)は、もはや米国のZ世代にもマイノリティにも刺さらなくなったと指摘する。
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
【作家・橘玲氏が読み解く米大統領選(2)】
トランプとマスクが掲げる「言論の自由」にも一理ある、SNSが抱えるジレンマに民主主義社会はどう向き合うか
左派のナラティブが崩壊した
──米大統領選はトランプ氏の圧勝でした。上下院も共和党が制して、もはやトランプ氏は怖いものなしの状況です。大手メディアを含め、事前予想では接戦ではあれほどハリス優勢との見方も根強かったわけですが、事前の予想を覆して、なぜ、これほど圧勝したのでしょうか。
橘玲氏(以下、敬称略):今回の大統領選で興味深いのは、「18〜29歳(Z〜Y世代)と黒人・ヒスパニック・アジア系の有色人種」がトランプ支持に大きく動いたことです。
トランプの岩盤支持層は非大卒の白人ですが、アメリカの全人口に占める白人の割合は6割弱で、さらに非大卒はその半分ほどです。これだけの支持でトランプが圧勝できるわけがなく、新たな支持層を獲得したのが、大卒のZ世代やY世代、そして有色人種です。
前回選挙時と比較すると、18〜29歳の層において、共和党の支持率は民主党の支持率より約25%低かったのが、今回はその差が約10%まで縮小しています。つまり、15ポイントも共和党支持に動いている。同様に、黒人では約10ポイント、アジア系とヒスパニックも約20ポイント共和党支持へと傾いたのです(Edison Research調べ)*1。
*1:US election results: How Trump won in maps and charts(FINANCIAL TIMES)
この結果が意味するのは、「左派(レフト)のナラティブ」の崩壊と見るべきでしょう。
インド系とアフリカ系をルーツにもつハリスを「多様性の象徴」と押し立てた民主党は、「環境問題への配慮や人種・性別による不平等の是正、中絶問題」を争点に打ち出しました。
民主党陣営には「若者や有色人種は自分たちが訴える物語に敏感に反応し、投票してくれる」という目論見があったのだと思いますが、蓋を開けてみると結果は逆でした。
実際のところ、若年層や有色人種といったこれまでの民主党の票田は、「きれいごとはいいから、インフレで苦しくなった家計と、大量に入ってくる不法移民を何とかしてくれ」と思っていたのでしょう。