「リベラル原理主義」に対する反発があった
橘:カウフマンは、有色人種が白人中心の社会や文化に抵抗し、拒絶するというリベラルの“常識”がそもそも破綻していると指摘しています。トランプが掲げるアメリカ第一主義への共感が強まったのは、「白人が築き上げてきた文明」を有色人種が好意的に評価しているからだと言うのです。
移民の多くは、「自由の国」に憧れてアメリカを目指しました。アフリカや中東、中南米諸国には現在も独裁者による圧政が続いている国が少なくありません。アジアでも共産国家が多数あります。白人(WASP)がつくってきたアメリカの社会制度や文化を肯定的に評価する有色人種の移民たちは、「白人文化」を全否定する左派の論理を理解できないでしょう。
移民は出身国の価値観を受け継いでおり、左派が唱える性的マイノリティの人権の過度な擁護に不安を感じたり、反発したりする層も多いでしょう。保守的な移民にとってはハリスの“多様性”よりも、トランプのアメリカの方が好ましいのです。
さらに、BLM運動(Black Lives Matter)では一部の過激な活動家が、「白人は生まれた時からレイシスト」と主張しました。これによって、これまで民主党支持のリベラルだった大卒で白人の若者たちが、いきなり「人種差別主義者」と批判されたことに驚き、東部や西海岸の大都市で開かれる右派インフルエンサーのパーティに出席するようになったといいます。
2016年とは打って変わって、今回はニューヨークのトランプタワーの前に、トランプの勝利を祝う群衆が詰めかけました。左派の「社会正義」がトランプの支持者を増やしているという皮肉な事態になっているわけです。
──トランプ氏は民主党を「アイデンティティ・ポリティクス」(政策よりも人種・性別・性的指向など重要視する政治)だ、と批判してきました。