
昨年の米大統領選でハリス前副大統領がトランプ氏に敗れて以降、凋落が著しい民主党に“異変”が起きている。プエルトリコ系で35歳女性の下院議員、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏が、ハリス氏を上回る支持を集めているのだ。トランプ大統領への対抗馬になるのではと期待する声も出始めている。「AOC」の愛称で知られ、注目度が急上昇しているオカシオ=コルテス氏とはどんな人物か。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
「私たちは今、『オリガルヒ』政治を目撃している。それは、米国で最も経済、政治、そしてテクノロジー面で権力を持つ者たちが、私腹を肥やすために公共の利益を破壊し、何百万人もの国民がその代償を強いられるというものだ」「この事態を表す言葉とは? 腐敗だ!」
これは3月22日、米南西部・アリゾナ州ツーソンで開かれた「オリガルヒと戦え」という集会で発せられた言葉である。発言の主は、米民主党下院議員のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏(35)。主催者発表で約2万の聴衆を前に、少数の富豪が権勢を振るう米国での「オリガルヒ政治」から力を奪い返せと訴えた。
「オリガルヒ」は元々ギリシャ語に由来し、少数の富豪が政治権力を牛耳ることを表す言葉だ。ソ連崩壊後は、主に国営企業の民営化で巨万の富を得たロシアなどの新興財閥を指してきた。
だがバイデン前大統領は今年1月の退任演説で、米国でオリガルヒ(寡頭)政治が形成されつつあり、それが民主主義や基本的権利、そして自由を脅かしていると警告した。国際NGOのオックスファムはオリガルヒ政治について「超富裕層のエリートが自らの富を増やす目的で政治的意思決定を形作ることであり、莫大な富の集中によって可能になる」と定義している。
氏名の頭文字を取った「AOC」の愛称で知られるオカシオ=コルテス氏の先の演説は、民主党会派に所属するバーニー・サンダース上院議員(無所属)が主導している「オリガルヒと戦う」米国ツアーでの一幕だ。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、サンダース氏はいわゆる政府効率化省(DOGE)を率いるイーロン・マスク氏による強引な連邦政府の規模縮小が始まってから「人々は怒り心頭なのではないか」と感じ、ツアーを企画したのだという。
蓋を開けてみれば、最初の訪問地であるネブラスカ州では当初予想の800人規模を大きく上回る3400人、同じくコロラド州・デンバーでは2万人の予想を超える3万4000人が集まった。これは、サンダース氏が2020年の大統領選に出馬した際の集会を上回る勢いであるという。
同氏が敏感に感じ取った、人々の政権に対する憤りが正しかったことの証明とも言えるだろう。集会の模様を撮影した動画も、最近SNSで多数拡散されている。
サンダース氏とオカシオ=コルテス氏は徹底して労働者の立場を取るその政治姿勢から、急進派・左派とされる。今年84歳になるサンダース氏は次期大統領選に出馬しないと見られる。オカシオ=コルテス氏はしばしば、サンダース氏の「後継」とも目されている。