2024年12月2日をもって現行の健康保険証の新規発行が停止され、健康保険証の機能はマイナ保険証へ一本化される。一方で、国民のマイナ保険証の利用率は高くはない。医療機関窓口での端末トラブル報告も多い。
マイナ保険証は本当に必要なのか、現行の健康保険証との共存はできないのか──。中島直樹氏(九州大学大学院医学研究院医療情報学講座教授)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)
──なぜ現行の健康保険証の新規発行を停止してまで、日本政府は保険証のデジタル化を急ぐのでしょうか。
中島直樹氏(以下、中島):日本政府は、今まさに医療DX政策を推進しているところです。
その一環として、国民と全国の医療施設の情報をプラットフォーム上で統合する医療DX基盤の構築に着手しています。この基盤構築にマイナ保険証は必要不可欠なので、国は全国民のマイナ保険証の取得、利用を期待しています。
──マイナ保険証への一本化は、国民からあまり支持されていない印象があります。
中島:2024年9月に実施されたアンケート(※)では、45%がマイナ保険証への完全移行に反対しています。賛成しているのは、たった13%です。
(※)調査機関『しゅふJOB総研』(運営会社:株式会社ビースタイル ホールディングス)の調査結果より
ただ、医療DX政策そのものはDXではないと私は常々思っています。現在、政府が推し進めている医療DX政策は「DXのための基盤づくり」です。基盤づくりには、反対がつきものです。
電線について考えてみましょう。電線は、電気という公共インフラのための基盤です。電線がなければ配電できないため、電化製品を使うことはできません。
昭和初期に電線が基盤として整備されたとき、どのようなことが起こったか。「高い棒が立って邪魔だ」「長い線がぶら下がっているけれども、何の役に立つのだ」と人々は思ったことでしょう。スマートフォンやパソコンはおろか、テレビも冷蔵庫もない時代です。
当時、政府ができた説明は「電気があると生活が便利になるらしい」「夜でも部屋の中を明るくできるらしい」という程度だったのではないかと思います。当然、「うちにはランプがあるから電気なんていらない」という人も出てきます。
このように新しい基盤は、サービスや商品に先行して構築されていきます。つまり、基盤を構築している最中は、その基盤が何のためのものなのかを具体的に説明することはできません。結果、多くの人が納得できないまま基盤構築だけがされてしまう。
現在も、全く同じことが起こっています。