マイナンバーカードの交付窓口(写真:岩手日報/共同通信イメージズ)

 6月2日に成立した「改正マイナンバー法案」。従来の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一本化する「マイナ保険証」を事実上義務化する法律だ。健康保険証の廃止は拙速な判断だと批判する声が絶えないが、河野太郎デジタル相は将来的には健康保険証に加え、運転免許もマイナンバーカードに一本化していく意向を示している。

 なぜ政府はこれほどマイナ保険証の普及を急ぐのか。『マイナ保険証の罠』(文春新書)を上梓した経済ジャーナリストの荻原博子氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──デジタル庁を中心に、政府はマイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」の普及を急いでいますが、さまざまな問題があると批判の声は絶えません。何が問題なのでしょうか。

荻原博子氏(以下、荻原):私たちはコロナ禍に、お医者さんたちにとてもお世話になりました。皆さん、本当に身を削って医療に携わってくださいました。そして、ようやくコロナが一段落してきたのに、またお医者さんを苦しめるものが出てきた。それがマイナ保険証です。

「マイナ保険証を導入すれば、医療機関での手続きがスムーズになる」と言われていますが、そんなのは大嘘です。

 2024年の秋に、これまで使われてきた健康保険証が廃止になります。これまではずっと、この健康保険証が1枚あるだけで、いろんなことに対応してもらうことができました。

 ところが、2024年秋に従来の健康保険証が廃止された後は、患者ごとに、保険証に代わる以下の6つのパターンのいずれかに、医療機関の窓口は対応しなければならなくなります。

①マイナ保険証
②暗証番号のないマイナ保険証
③マイナ保険証を持っていない人のための資格確認証
④被保険者資格申立書(オンライン資格が確認できない患者に、本来の自己負担額の保険診療を行うための申請書)
⑤資格情報お知らせカード(マイナ保険証を利用できない医療機関で、マイナ保険証と同時に提示することで保険診療が受けられるようにするもの)
⑥従来の健康保険証(これまでの健康保険証は2024年秋に廃止するが、政府は完全廃止までに1年間の暫定期間を設ける)

 複数の異なる保険証の形に対応するため、医療機関の窓口業務はメチャクチャ大変になりますし、こういったものを持っていかなければならない患者さんも迷う可能性がある。

 停電が起きれば一時的にカードリーダーが使えない事態も発生するでしょうし、顔認証がうまくいかない問題はすでに頻発している。暗証番号を3回間違えて、拒否になってしまう患者さんをどう扱ったらいいのかなど、窓口と患者の双方にとって多大な混乱や手間を強いる事態が想定されます。