所信表明演説でリスキリングに言及した岸田首相(写真:共同通信社)

 2022年10月3日、臨時国会における所信表明演説で、岸田首相は「個人のリスキリングに対する公的支援に、今後5年間で1兆円を投じる」と述べた。リスキリングとは、新しいことを学び、新しいスキルを身に付け実践し、新しい業務や職業に就くこと。業種間における人材のミスマッチを解消し、人材という限られた資源を有効に活用するために必要な施策だ。

 なぜ国が多額の資金をリスキリングに投じるのか。リスキリングの必要は本当にあるのか。リスキリングの際に気をつけるべきことは何か──。『新しいスキルで自分の未来を創るリスキリング 実践編』を上梓した、後藤宗明氏(一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事)に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──「日本では『リスキリング=学び直し』というように捉えられがちだが、それは半分正解で半分違う」と書かれています。

後藤宗明氏(以下、後藤):リスキリングと学び直しは、いずれも「学ぶ」という要素を含むという共通点があります。

 学び直しは、個々人が自身の好きなものを、好きな時に好きな場所で学びます。一方、リスキリングの現場は組織や企業です。

 リスキリングは「新しいスキルを習得させる」という意味です。リスキリングの主語は「企業」で、目的語は「従業員」。「組織が従業員をリスキルする」というのが、リスキリングの正しい理解です。

 新しいことを学ぶという点はリスキリングにおいて重要です。しかし、それ以上に重要なのは、新しい技術を学び、実践し、そして習得したスキルをもって新しい業務や職業に就くということです。これがリスキリングのゴールです。

 そういった意味で、「リスキリング=学び直し」は、半分正解ですが、半分違う。リスキリングに取り組む際には、まずは「リスキリング=学び直し」という誤解を正す必要があると思います。

──なぜ今、リスキリングが注目されているのでしょうか。

後藤:テクノロジーの発展・浸透により、これまで人間が担ってきた労働がテクノロジーに代替されるということが、現実世界で既に起こっています。これは「技術的失業」と呼ばれています。

 リスキリングに取り組めば、今後テクノロジーに代替され、衰退していく仕事から、新しくできる仕事に移行する能力を身に付けることができるテクノロジー、特にAIが急速に社会実装されつつある今だからこそ、リスキリングに注目が集まっているのです。

岸田政権が進める主要施策のメニュー。労働市場改革の筆頭にリスキリングが上がっている(写真:共同通信社)

──リスキリングを成功させるためには、どのようなポイントがあるのでしょうか。

後藤:書籍にはいろいろ書きましたが、今回は特に重要なポイントとして、3つ挙げたいと思います。