なぜ日本ではデジタル化が進まないのか。なぜ国民は番号制度を忌避するのか──。日本にかけられた「マイナンバーの呪い」について、長年、政府のデジタル化プロジェクトに関わってきた専門家がひもとく。4回目の今回は、日本をデジタル後進国たらしめているマイナンバーの呪いを解くにはどうすればいいか。
※1回目「デジタル庁が発足して1年、ちっとも進まないデジタル化の根源に横たわる呪い」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72056)
※2回目「デジタル化のメリットが反映されていないマイナンバー制度の致命的欠陥」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72230)
※3回目「マイナンバーカードと健康保険証の一体化、今のままでは大惨事が起きかねない」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72373)
(榎並 利博:行政システム株式会社 行政システム総研 顧問、蓼科情報株式会社 管理部 主任研究員)
呪いを解き、マイナンバー制度の抜本的改革へ
「番号は秘密だ」というマイナンバーの呪いを解くためにはどうすればいいのか。答えは簡単だ。「番号は秘密じゃない」という呪文を唱え、マイナンバーを甦らせればいい。
このような言い方をすると、ふざけているのかとお叱りを受けるかもしれない。しかし、呪いとでも言うべき非論理・非合理に支配された空気を一変させるような科学的方法があろうか。呪文以外には考えられないのだ。
そこで私たちができることは、誰もが呪文を唱えるような環境を構築することに尽きる。
なぜ秘密では不都合なのかと問う方に対しては、マイナンバーのきっかけとなった失われた年金納付記録問題を思い出してほしい。
住所や氏名が変わっても、納付記録に自分のマイナンバーが記載されていれば自分の記録だと主張できる。マイナンバーカードは、このマイナンバーは自分のものだと主張するための証明書だ。
年金の納付記録問題が発覚したのは10年以上も前であり、マイナンバー制度も開始から5年を経過した。マイナンバー制度を抜本的に見直す議論をしてもいい頃だ。
政府としては、国民から評判の悪い番号制度を何とか推進するため政治的な妥協を重ねてきたのに、「今さらちゃぶ台返しする気か」と怒り狂うかもしれない。しかし、デジタル庁が設置され、重点計画でもマイナンバー法改正に言及しており、この議論は無駄にはならない。
筆者としても、番号制度を推進するため、これまで政治的な妥協に甘んじてきた。しかし、あちこちで綻びが見え始めており、妥協によって歪められた設計が災いを招くことを無視できない。
抜本的見直しを次に提言するが、すぐに実施できるものばかりではない。しかし、目指すべき方向性を見誤らないよう、理想的な姿を示すことは必要だと考えている。
以下、その提言である。