政府は2024年秋をめどに、現行の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化した保険証に切り替えると報じられている。マイナンバーの普及がなかなか進まない中、普及を促すための一手だと考えられる。なぜ日本ではデジタル化が進まないのか。なぜ国民は番号制度を忌避するのか──。日本にかけられた「マイナンバーの呪い」について、長年、政府のデジタル化プロジェクトに関わってきた専門家がひもとく。
※1回目「デジタル庁が発足して1年、ちっとも進まないデジタル化の根源に横たわる呪い」から読む
(榎並 利博:行政システム株式会社 行政システム総研 顧問、蓼科情報株式会社 管理部 主任研究員)
マイナンバーの呪いはなぜかけられた?
マイナンバーの呪いのせいで、我が国はデジタル先進国へと脱皮できない。どのような経緯で「番号は秘密だ」という呪いがかけられたのだろうか。
約40年前のグリーン・カード制度は「番号」を「カード」と言い換えたにもかかわらず大失敗し、政府の中で「国民は番号を嫌悪している」「番号は政治にとって命取りだ」という空気が醸成されたのは間違いない。
初めての番号制度である住基ネットは、その空気を反映して設計された。
住基カードは自分の番号を証明するカードであるにもかかわらず、番号(住民票コード)はどこにも記載されなかった。ICチップ内に格納されているだけで、自分の番号を確認できない仕組みだ。
そして、署名用電子証明書にも番号は記載されていない。つまり、自分の番号を電子的に証明する手段がない。住基カードは、「番号は秘密で危険だから使ってはいけない」という意識を国民に刷り込んでしまった。
当時は住基ネットに対する反対運動が激しく、出版物も拙著『住基ネットで何が変わるのか』を除いてすべてが住基ネット反対、世論も番号制度反対の一色だった。
その空気を察した政府は番号を隠すだけでなく、「住基ネットは国のものではなく自治体のものです」という法的位置づけにした。裁量のある自治事務だからと一部の自治体は住基ネットを離脱し、それがまた番号は危険だという空気を助長し、呪いはさらに深く浸透していった。
残念ながら、政府には「番号制度(住基ネット)はデジタル社会の重要な基盤であり、自治体は法定受託事務(国の事務)として速やかに実施せよ」と毅然と説明する気概がなかった。
それどころか住民票コードは「危険だから使ってはいけない番号」の様相を呈し、法律上、年金管理で使えたものの、当時の社会保険庁では使おうとしなかった。
それで起きたのが、失われた年金の納付記録問題だ。基礎年金番号という台帳に基づかない、いい加減な番号を使っていたから起きた問題である。
そもそもの話として、番号は危険だから秘密にしなければならないのだろうか。