なぜ日本ではデジタル化が進まないのか。なぜ国民は番号制度を忌避するのか──。日本にかけられた「マイナンバーの呪い」について、長年、政府のデジタル化プロジェクトに関わってきた専門家がひもとく。
3回目の今回は、本人確認用IDに電子証明書のシリアル番号を使う危険性について。すべては電子証明書にマイナンバーが記載されていないことに、言い換えれば、番号に対する国民の嫌悪感に忖度してマイナンバーの活用を放棄している点にある。
※1回目「デジタル庁が発足して1年、ちっとも進まないデジタル化の根源に横たわる呪い」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72056)
※2回目「デジタル化のメリットが反映されていないマイナンバー制度の致命的欠陥」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72230)
(榎並 利博:行政システム株式会社 行政システム総研 顧問、蓼科情報株式会社 管理部 主任研究員)
マイナンバーの呪いは日本のデジタル社会を暗闇の中に閉じ込め、我々は一条の光明さえ見いだせない状況だ。
いやそれは言い過ぎだ、「番号は秘密だ」という呪いなんて関係ない、デジタル云々など細かいことをグダグダ言うなという方もいるだろう。しかし、呪いが招く災いによって、日本が後進国に陥落していくかもしれない。それを回避したいなら、呪いを解いてデジタルが機能する仕組みに変えていくべきだ。
直近で起きた大きな問題と言えば、10万円の特別定額給付金のトラブルだろう。パスワードがわからなくてカードがロックされ窓口に住民が殺到した、給付用口座の確認作業に手間取った──などの様々な問題が起きたが、ここでは番号に問題を絞って考えてみたい。
住民からの申請をオンラインで受け付ける場合、まずその申請者を住民基本台帳に登録された住民と一致させ、住民であることを確認し特定しなければならない。
紙の場合には氏名や住所を目視で一致させるが、デジタルの場合はデータをマッチングして一致させる。しかし、番号がないと絶対に一致しない。同姓同名や表記方法の違いもあるが、使用している文字が異なるからだ。
つまり、(文字の問題は別稿で論じることとして)申請者と住民登録者をデータ・マッチングするには、文字ではなく何らかの番号が必須となる。
問題なく特別定額給付金のオンライン申請を処理した自治体では、あらかじめIDを郵送してオンライン申請時にこのIDを入力させたり、電子証明書のシリアル番号を使ったりしてデータ・マッチングさせた。
デジタル社会でなぜ番号が必要とされるのか、これで理解できるだろう。番号がないと本人を特定できないのだ。
しかし、これらの方法には問題がある。郵送したIDは一時的に作成した番号だ。オンライン申請のたびにIDを生成して郵送する、これが目指すデジタル社会だろうか。