2024年11月の米大統領選の前に、米国の「米国移民評議会(AIC)」が不法移民の国外退去にかかる総コストを弾き出した。基本的にトランプ氏の当選を止めるために出されたレポートだが、不法移民の国外退去にどれだけのコストと手間がかかり、米国の経済に影響を与えるのかがよくわかる。(長野 光:ビデオジャーナリスト)
不法移民の国外追放にかかるコストとは?
2025年1月20日から第2次トランプ政権が始動する。12月初旬に放送された米NBC Newsの1時間を超えるロングインタビューで、「この国にいる不法移民を全員追放(強制送還)するのですか?」と問われたトランプ次期大統領は「やらなければならないね」と返答した。もっとも、「まず犯罪歴のある不法移民から国外追放する」と強調するも、犯罪歴のない不法移民の話になると急にトーンダウンする姿は実に印象的だった。
次期大統領は、不法移民の受け入れを出身国が拒否した場合、カリブ海諸国が受け入れるようにと各国に打診しているが、バハマ政府は早くも「断固として拒否する」と声明を発表。メキシコのシェインバウム大統領も「メキシコの受け入れ分は、メキシコの不法移民の国外追放分に限る」と語っている。
それでは、米国が不法移民を全員国外に追放しようとした場合、それは実際にどれくらいの規模になり、どれほどの作業になるのだろうか。非営利団体「米国移民評議会(AIC)」が、米大統領選直前の10月に、不法移民の大量国外追放に関して「Mass Deportation」というレポートを発表した。レポートでは、不法移民の大量国外追放は可能なのか、どれくらいコストがかかり、どれだけの経済的な影響があるのかを分析している。
移民を支援している団体が作成したレポートであり、基本的にトランプ氏の大統領選における勝利を止めたいというスタンスである。そのため、不法移民の大量国外追放はいかに荒唐無稽かという論調で分析やデータの提示が行われている。
ただ、トランプ次期大統領は、各国への関税措置と同じくらい力を入れて不法移民対策を掲げてきただけに、政権が動き始めれば、不法移民の大量追放は一つの重大なテーマになる。その時に、このレポートに記載されたデータや分析、それに類するものが議論されることは間違いない。
そこで、AICのレポートに書かれているポイントについて、詳細に紹介したい。
※レポートに記載されているさまざまなデータは、American Community Survey(ACS)の調査結果と、さまざまな公開データを組み合わせてAICが作成したものである。なお、この資料と記載された各データをここで引用・紹介することに関しては、AICより了承を得ている。AIC以外のデータも補足説明として部分的に含む。