逃亡した不法移民1人を逮捕するためのコスト
米国で、最も不法移民が多いのは、カリフォルニア、テキサス、フロリダの3州で、これらの州に住んでいる不法移民の数を合わせると、米国に住む不法移民全体のほぼ半数になる。テキサスでは全人口の6.4%が、カルフォルニアでは5.5%が、フロリダでは5%が不法移民にあたる。
2023年の会計年度に、米国の734人の移民裁判官は52万5819件の案件を処理した。1件あたり1719.57ドルかかっている。
1100万の案件をもし一気にすべて処理するとなると、作業の増加に伴いかかる費用も増加して282億ドルになる。年間あたり100万件の強制送還を行う場合、今のやり方で処理するのであれば、移民裁判官の雇用の数を大幅に増やす必要がある。
不法移民は逃亡する可能性もあるが、米移民・関税執行局(ICE)の逮捕統計によれば、逃亡者1人を逮捕するためには、平均で6653.65ドルの費用がかかる。
大規模な不法移民の国外追放が継続的に行われる場合、一定の数の不法移民が自ら国を去ることが想像され、その数は不法移民全体の20%ほどになるのではないかと予想される。残り80%は逮捕、拘留、法的手続きによって国外退去を迫られることが予想される。
また、受け入れ先の問題もある。不法移民を送り返すにしても、膨大な人数になるために、送り返される国が、そのまま受け入れる可能性が低く、政治的な交渉や他の受け入れ先の確保など、さまざまな外交上の手続きが発生することが予想される。
以上がAICのレポートに記された数々のデータである。こうした数字は、データの集め方を少し変えれば変動するだろう。ただ、膨大な国費を投じて、国境の壁を建設したり、大量強制送還をしたりするのではなく、不法移民を雇用する事業者に罰金を課すなどのペナルティーを設けたほうがはるかに効果的に対処できるのではないだろうか。
不法移民が生活できる環境が成り立っているのは、不法移民が働ける環境があるから。やはり大量強制送還は「やっている感」を演出するためのパフォーマンスなのだろうか。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。