(松本 方哉:ジャーナリスト)
激戦州は全て僅差で「トランプ大勝」ではなかった
アメリカ大統領選に勝利し、いよいよ1月20日から始動する「トランプ2.0」。トランプ氏は繰り返し自らの勝利を「国民総意による私への委託(mandate)」と表現してきたが、本当にそうなのか。
確かに、トランプ氏は選挙で優位に立ち、すべての接戦州で勝利した。共和党は議会上下両院のコントロール権を掌握した。ただし、それがどれだけ薄氷を踏むような結果だったかについては、正しい情報が伝わっていない。日本ではいまだに「トランプ氏の地滑り的な圧勝」と分析する専門家やメディアもある。
「地滑り的勝利」でも「大勝」でもなかったことは激戦州と言われた7州(ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州、ノースカロライナ州、ジョージア州、アリゾナ州、ネバダ州)の投票結果を細かく分析すれば分かることだ。
対立候補のハリス氏が「勝利の道」だと考えていたラストベルトの3州(ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州)がいかなる結果に終わったかを改めて振り返って分析してみよう(*以下のデータは政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の実数)。
まず、ウィスコンシン州は開票率100%で「ハリス48.7%/トランプ49.6%」とわずか0.9ポイント差でトランプ氏が勝った。ここで大事なのは0.9ポイント差とはどれくらいの差なのかをきちんと知ることだ。
ウィスコンシン州では、トランプ氏が獲得したのが169万7626票で、ハリス氏が166万8229票だったので、その差はわずかに2万9397票。ウィスコンシン州の人口は約591万人なので、トランプ氏、ハリス氏のどちらにも投票しなかった州民が254万人もいたことになる。その中から3万人を説得できていたらハリス氏が勝っていた。
同様にミシガン州は開票率100%で「ハリス48.3%/トランプ49.7%」、わずかに1.4ポイント差でトランプ氏が勝った。トランプ氏が獲得したのは281万6636票でハリス氏が273万6533票と、その差は8万103票だった。1000万人が住むミシガン州でもう8万人、ハリス氏は何とかできなかったのだろうかと考えるのが政治分析である。
さらに「激戦州の中の激戦州」と言われたペンシルベニア州の結果も見てみたい。開票率100%で「ハリス48.7%/トランプ50.4%」、1.7ポイント差でトランプ氏が勝った。
ペンシルベニア州で獲得した票は、トランプ氏が354万3308票でハリス氏が342万3042票、その差は12万266票だった。12万と聞くと大きな数字に思えるが、ペンシルベニア州の人口は1296万人だ。なぜハリス氏はそのうちの12万人を説得できなかったのか。
こうした結果も踏まえると、トランプ氏の「圧勝」とか「地滑り」という言葉とは全く違った様子が見えてくるはず。まさに「しびれるような僅差」「鼻の差」であった実態がよく分かる。