欧米で「リマイグレーション(remigration)」という単語がSNS上などで急拡大している。本来は中立的な意味だったが、移民の国外強制排除を求める差別的な主張の隠れ蓑として使われている。欧州の極右インフルエンサーが発信源で、大統領選さなかのトランプ氏がXで言及。“新たな”差別用語が拡散している背景には、マスク氏がX(旧Twitter)買収後、このインフルエンサーやトランプ氏の凍結されていたアカウントを復活したことなどが影響しているという。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
9月29日、オーストリアで実施された国民議会選挙で、極右の「自由党」が第1党となった。この党は1950年代、元ナチス関係者らによって結党されており、合法、違法を問わず移民に対してそれぞれ厳しい政策を課すと公約を掲げていた。
9月初めにはドイツ東部の州議会選挙でも極右政党が第1党となった。欧州各地で広がるこうした極右政党の台頭に警戒感が高まっているが、それとともに極右活動家の間やメディアの報道で広がっているある言葉がある。「リマイグレーション(remigration)」だ。
元々は、移民として外国に移住した人たちが出身地に戻ることを意味する中立的な言葉だった。しかし今年1月、ドイツの言語学者らは、「リマイグレーション」を差別用語として認定した。昨今、この言葉は、移民を国外に強制排除する行為を婉曲的に表現するものとして認識されつつある。
欧州で「移民の大量移送」というと、ナチス・ドイツによるユダヤ人に対する非人道的な差別行為や大量虐殺を想起させる。だが、「リマイグレーション」という一見中立的な言葉を使うことで、差別行為などの隠れ蓑にしようというのだろう。
「リマイグレーション」はなぜ最近多用され、差別用語と認識されるようになったのか。発信源は、35歳のオーストリア人極右インフルエンサーだ。
この極右活動家は、マルティン・ゼルナー氏。9月、ゼルナー氏に密着した米ワシントン・ポスト紙によれば、ゼルナー氏は「自分は レイシストではない」とし、また自身の活動を、 非暴力を唱え続けたマハトマ・ガンジー氏や、アラブの春と同列に置いているという。
しかし、同紙はゼルナー氏とその活動が複数の欧州当局により極右の過激派とみなされ、監視下に置かれていることも伝えている。英国では入国禁止措置を受けている。
ドイツの極右政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」の欧州議会議員はワシントン・ポストの取材に対し、ゼルナー氏が、かつては「スキンヘッドが行うもの」というイメージから脱却できずにいた欧州での右翼活動を、環境活動団体グリーン・ピースのような「ファッショナブル」なものに転換したと話している。
ワシントン・ポスト紙はまた、ゼルナー氏の提唱する「リマイグレーション」が、数百万人に及ぶ移民の組織的な追放を意味すると指摘している。「移民」の中には不法移民も含まれているが、海外にルーツを持つがその国で生まれ、合法的に暮らしている移民もターゲットにしているという。社会的に同化、もしくは適応されていないと「みなされた」 人たちは排除すべきという考え方だ。