発信源、オーストリア極右インフルエンサーの素顔

 ゼルナー氏が欧米で注目を浴びるきっかけとなったのは、2019年に起きたニュージーランドでの銃乱射事件だ。同国のクライストチャーチで、白人至上主義者の男によって2つのモスクが襲われ、51人もの人たちが犠牲になった。

 ゼルナー氏はのちに、この犯人からニュージーランドでの凶行の前年、1500ユーロの寄付金 を受け取った上に、犯人と友好的なメールを複数回やり取りしていたことが判明した。クライストチャーチでの事件後、ゼルナー氏は犯人との協力関係が疑われ、オーストリア当局から捜索を受けている。ゼルナー氏は当初、犯人の男との親密な関係を否定していた。

 フェイスブックやインスタグラム、YouTube、並びにTikTokといった主要SNSから軒並み使用を禁じられているゼルナー氏だが、Xとテレグラムでは引き続き活動を行っている。ゼルナー氏は2020年、当時ツイッターであったXからもアカウントを凍結されていたが、今年3月、Xの現所有者であるイーロン・マスク氏によって復活されている。

極右インフルエンサーのゼルナー氏(出所:ゼルナー氏のXより)

 ゼルナー氏のアカウントには現在8万人以上のフォロワーがおり、欧州委員会が問題視している青い認証マークが付いている。

 その上マスク氏はゼルナー氏のアカウント復活後、同氏がスイスで「リマイグレーション関連の講演をスイス当局に止められた」という投稿に、当局の合法性を疑うような反応まで返している*1。 

*1Elon Musk replies to post by far-right Austrian linked to Christchurch terrorist after X account restored(The Guardian)

 米ブルームバーグは9月末、オーストリアでの選挙結果が判明する前に「リマイグレーション」という言葉が、今年に入ってから欧米で爆発的に広がった様子を図解している*2

*2“Remigration” How a White Nationalist Threat Spread From Austria to the US(Bloomberg)

 ここで使用されている図は、ブルームバーグが310万件に及ぶSNSの投稿を分析したものとされている。これによると「リマイグレーション」は、選挙イヤーと呼ばれる今年、主要な選挙前に多用されていることが判明している。

 特に今年1月には、リマイグレーションを含む投稿数が突出して多い。これはその当時、ドイツの調査報道機関である「コレクティフ」が、ドイツのAfD幹部らが「ドイツに完全に同化していない」移民をアフリカに強制送還するという謀議に参加していたことをスクープした時期と合致する。

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 実はこの場には、ゼルナー氏も参加している。コレクティフは記事中、この謀議の参加者リストにゼルナー氏の名前を「ネオナチ」として記している。ゼルナー氏自身が、自分がかつてネオナチであったと認めているからだ。