X所有者マスク氏の米国移住に「グレー」な過去

 白人至上主義者は米国で合法的に暮らしてきた移民に対するリマイグレーションすら訴える が、そもそも自分たちも移民の末裔だということを忘れてはいないだろうか。そしてその姿勢は、米国の独立宣言が掲げた「すべての人間は生まれながらにして平等である」という理念に反する。 

 ブルームバーグは10月1日、かつては白人の民族主義者が使ってもさほど注目されなかった「リマイグレーション」という言葉が、イーロン・マスク氏のXにより米政治で「復活」したと伝えた。米国では、今年1月にはリマイグレーションという言葉を使った投稿がわずか4.7%にすぎなかったものが、11月の大統領選が目前に迫ってきた 9月には58%に拡大したという。これは、トランプ氏がこの言葉をXで投稿した時期にも重なる*3

*3Elon Musk’s Role in Reanimating the Far-Right Term ‘Remigration’(Bloomberg)

「リマイグレーション」という言葉の拡散に歯止めをかけず、X上での移民や難民に関する偽情報を取り締まりもしないマスク氏だが、実はかつて、自身の米国移住は「違法すれすれ(グレーゾーン)だった」と発言している。マスク氏は南アフリカ出身で、米国籍を有するようになったのは2002年からといわれている。

イーロン・マスク氏の米国移住は「グレー」な状況だった?(写真:AP/アフロ)

 それより以前の90 年代の状況について、マスク氏と共に当時米国で暮らしていた弟のキンバル氏は2013年の講演で「自分たちは不法移民だった」とはっきり話している。踏み込み過ぎと感じたのか、 マスク氏はこの発言を即座に「グレーだった」と横から 遮っている*4

*4Elon Musk is one of illegal immigration’s harshest critics. He once described his past immigration status as a ‘gray area’(CNN)

 CNNはこの件について、マスク氏が90年代大学生として米国に入国してから、スタートアップを開業するためなど、どのような就業ビザをどう取得したのかに着目し、そのあたりは不透明だとも指摘した。現状、米国で同氏の不法滞在に関する証拠は見つかっていないという。しかし、米国移民弁護士協会の元会長はCNNの取材に「彼には過去、移住に際し少々不安定な要素があったように思われる」と発言している。

 米国移住の合法性はともかく、リマイグレーションの拡散を危険視しない マスク氏やそれを声高に掲げる 白人至上主義者らも、そもそも自身か、あるいは両親や祖先が他国から米国に渡ってきた移民だ。トランプ氏も、ドイツ系移民の父親とスコットランド人の母親から生まれている。

 マスク氏がX上でやたらと連呼する「表現の自由」は、確かに米国が掲げる最も重要な理念の一つだろう。他方同氏の極右支持は、 移民大国であり、多様性を重んじる米国の理想から大きく乖離している。したがって、マスク氏自身、極右が主張するリマイグレーションの定義である「社会に同化できていない」人物に該当するとも言えるのではないだろうか。