8月7日、ロンドンでは極右勢力の反移民デモに対して抗議するために多くの市民が集結した(写真:AP/アフロ)
  • 7月末、3人の女児が殺害された事件を発端に発生した英国の極右勢力による大暴動。背後には、「犯人はイスラム系」といった誤情報の拡散があった。
  • 誤情報を最初に投稿したとして会社役員の女が逮捕された。反イスラム活動で悪名高い男は、英国外のリゾートホテルに滞在しながら暴動を煽る投稿をしていた。
  • 炎上を楽しむように「安全地帯」からヘイトを投稿する人物は、まるで「カウチポテト」ならぬ「カウチヘイター」。こうした行為を野放しにするプラットフォーマーの責任は重い。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 イングランド北西部のチェシャー警察は8月8日、X上で不正確な情報を広め、ヘイトを扇動した疑いで55歳の女を逮捕した。公共秩序法違反に加え、昨年成立した「オンライン安全法」に基づく虚偽通信容疑だ。7月末から英国各地で大規模な暴動が発生して大問題になっているが、この女は暴動を扇動するヘイトの誤情報を最初に投稿した人物と見られている。

 女は英国人の白人。イングランド北西部で7月29日に3人の女児が殺害された事件について、でたらめなイスラム風の犯人の氏名や背景情報などをXに投稿していた。その内容は、「昨年ボートで英国にやってきた難民希望者」であり「MI6(英国対外情報機関・秘密情報部)の監視リストに載っていた」といったものだ。名前は創作されたものと見られ、投稿内容は全て誤情報だ。一時削除されたと報じられたアカウントには、すでに数万単位のフォロワーがいたという。

 女児3人が殺害された事件の地元警察が、容疑者として英国生まれの17歳の少年を逮捕したと発表したのが29日午後7時18分。女は、この公式発表前の午後4時49分に、先の誤情報を投稿していた。

 この投稿の1時間後、ロシアと繋がりのあるウェブサイト「チャンネル3NOW」が事実としてこれを報じた。ロシアの放送局RTもチャンネル3NOWからこの情報を引用して伝えた。

反移民を訴える人々=8月4日(写真:ロイター/アフロ)

 その後、女は投稿を削除し、チャンネル3NOWも謝罪の上、記事を削除している。だが、この情報が100万近いフォロワーのいる著名な極右活動家らインフルエンサーの目にとまり、拡散されたことで暴動が爆発的に広がったと見られている。

 この暴動で各所のモスクや移民弁護士事務所、難民が暮らしていたホテルなどが標的とされた。先の女とは別に、9日にはSNSで暴動を煽ったとして20代の3人の男が実刑判決を受け、それぞれ1年8カ月〜3年超の刑期を言い渡された。

 量刑が最も重かった26歳のノーザンプトンの男は、X上で8月7日、難民の滞在するホテルに火をつけろと投稿している。刑期は3年2カ月だ。3人の子供の父親というこの男は裁判で投稿を認めた上で「ヘイトを煽るつもりなどなかった」と釈明している。地元の保守党の市議会議員の妻がポストした同じ文言を書いただけだという。この妻も、自身のポストにより逮捕されている*1

*1Northampton Dad-of-three Tyler Kay jailed for three years for 'burn hotels' online post(itv)