- スペインで「オーバーツーリズム」が、観光客vs地元住民の深刻な対立を招いている。
- バルセロナは2028年にAirbnb(エアビーアンドビー)などの民泊を禁止することを決めた。
- 英国では、地元経済への観光客の大切さを思い知らせようと、スペイン旅行をボイコットする動きも出ている。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
本格的な夏の観光シーズンを迎えたスペインでは、観光客が急激に押し寄せることで地元市民の生活に様々な弊害が生じる、いわゆる「オーバーツーリズム」への反発が広がっている。
6月19日、世界遺産である聖堂「サグラダ・ファミリア」や、世界屈指の名門サッカークラブがあるバルセロナで「観光客は帰れ!」などと書かれたプラカードを掲げたデモ隊数百人が抗議活動を展開した。海外からの観客が数多く訪れるF1のスペイン・グランプリ開催を4日後に控えたタイミングだった。
スペインではこのところ、アンチ・オーバーツーリズムを掲げるデモや抗議運動が各地で頻発している。今年4月には、温暖な気候と穏やかな海などで知られるカナリア諸島で、数万人規模の反観光客デモが繰り広げられた。主催者発表で5万人、警察発表でも2万人が参加したとされている。
世界経済フォーラムが作成した2023年の旅行・観光開発指数において、スペインは前年首位の日本を抜き世界2位となった(1位米国、日本は3位)。この指数は安全性や交通インフラ、また観光資源などに基づいている。
スペインは昨年、海外からの観光客が史上最多の8500万人を記録した。今年は熱波の影響が指摘されているが、前年を上回る9000万人が見込まれているともいう。今年のGDP成長率の4分の1が、観光によるとも予測されている。カナリア諸島の人口は220万人程度であるのに対し、昨年訪れた観光客はその7倍近い約1400万人にも上った。
経済的な恩恵を受けながらも、観光客に対する怒りに火をつけた最も大きな要因は何か。豊かな観光資源を誇る日本でも近年、マナーの悪い観光客によるオーバーツーリズム問題が深刻化している。後述するとおり、スペインをはじめとする欧州各地でも観光客のマナー問題は深刻だ。
しかしそれ以上に重大なのは、観光客の増加により、その地で長年暮らしてきた多くの地元民が住居を奪われていることだ。