オーバーツーリズムで家賃高騰?地元民が住めなくなる

 先月、スペインの日刊紙エル・パイスは、スペイン南部、カディスのアパートで60年近く暮らしてきた88歳の女性が、立ち退きの危機に直面した様子を特集した。女性の住むアパートでは、他の部屋が次々と民泊に改装されていったという。

 女性はおよそ100ユーロほどの家賃を支払ってきたが、ついにオーナーから14万7000ユーロで部屋を購入するか、立ち退くことを迫られた。年金が月額およそ1200ユーロのこの女性には、部屋の購入は不可能だった。

バルセロナの観光名所「サクラダ・ファミリア」(写真:Tony_Papageorge/Shutterstock)

 引っ越そうとしても最低でも800ユーロの家賃という高額の物件しか見つからなかったという。短期滞在型の民泊が乱立する一方で、欧州各地同様、家賃が高騰しているからだ。女性は、終(つい)のすみかと思って暮らしてきた我が家で生涯を終えられないことを悟りつつ、不安で夜も眠れなかったという。

 この女性のようなケースはスペイン各地に数多く起きている。家主が長期賃貸よりもより金銭的に魅力のある観光客向け短期滞在レンタルを好む傾向が増加しているという。バルセロナでは、2018年から2022年の間で賃料が36%も上昇したと報じられている。カナリア諸島では、あまりの高さに家賃が払えず、自家用車で眠るしかない人たちまでいるという。

 英ガーディアン紙はカディスと同じくスペイン南部のマラガについて、民泊増加に伴い地元住民用の賃貸物件の供給が減少したと訴える男性の声を伝えている*1。この男性は、10年暮らした賃貸物件が家主の意向で観光用の短期滞在アパートに改装されるため、退去を求められた。新居を探す中で、4万ユーロもの敷金を要求されたり、また別の家主からは内見だけで200ユーロも要求されたりするなど、七転八倒の苦しみを味わったという。

*1‘A family used to live here’: The Spanish sticker rebellion battling tourist lets(The Guardian)

 各地で市民から不満が噴出する中、バルセロナのコルボニ市長は6月21日、2028年11月に、現存する1万件以上の民泊許可を廃止すると発表した。観光向けの短期滞在レンタルを完全になくし、その分を賃貸、もしくは売却して地元住民が住めるようにすると説明した。実現すれば、民泊仲介大手のAirbnb(エアビー)はバルセロナで展開することができなくなる。

 バルセロナ市議会によると、この10年で賃貸価格が68%、売買価格は38%上昇したという。2020年にはバルセロナにおいて、エアビー広告が最も多かった中心部のエリアでは、賃料が7%上昇したという報告書も出ていた*2

*2Do short-term rental platforms affect housing markets? Evidence from Airbnb in Barcelona(SienceDirect)

 市長の決定に反対する観光アパート協会は、禁止措置が違法民泊の増加を引き起こすだろうと反発。また、こうした観光客用のアパートは住宅戸数の0.77%を占めるのみで、住宅問題を解消することにはつながらないとも指摘している。