迷惑行為繰り返す一部の英国人、スペインボイコット運動も

 昨年のスペインへの英国人観光客は1700万人余りと、スペインを訪れた観光客のおよそ5分の1を占める。

 サッカー観戦の海外遠征で酔って暴れるなど、一部の英国人観光客はしばしば欧州各地での迷惑行為が問題となっている。最近では「ポーランドの京都」と呼ばれるクラクフで、同地を「パーティーシティ」と銘打ち、夜な夜ならんちき騒ぎを起こしているという。騒音やゴミ、嘔吐物をまき散らかして暴れる英国人があまりに多く、地元の人々は「街が生き地獄と化した」と訴えている*3

*3Locals claim this picturesque city has been ‘destroyed’ by unruly tourists(METRO)

 自らの素行の悪さは棚にあげ、「観光客を歓迎しないスペインはボイコットしろ」などというヘイトまがいの言動がSNSやタブロイド紙上に散見する。英国のニュース専門チャンネルで右派として知られる「GBニュース」の取材に答えたある観光客は「奴らは観光なしで生き残れない」「追い出すより呼び戻すことが大変だと思い知るだろう」と語っている。

 右派のタブロイド紙、デーリー・エクスプレスに至っては、全ての英旅行会社がスペインへのツアーをキャンセルすべきだというあるフェイスブックユーザーのコメントを載せた上「フランス人は英国人ほど観光で金を落とさない。日本人など数千枚の写真を撮るばかりで何も買わない」「観光の要(である英国人)を怒らせるとスペイン経済に深刻な落ち込みが生じると気づくだろう」などという少々傲慢な英観光客らの主張も掲載している*4

*4Spain tourism crisis as 'all' UK travel operators urged to cancel holidays(EXPRESS)

 民泊の乱立が、このような一部の心無い渡航者の迷惑行為を助長し、さらに地元住民が立ち退きまで迫られるような事態を引き起こしてきたのだとしたら、そのビジネスモデルは早急に再考されるべきだろう。

 南部カディスに暮らす先の88歳の女性に関しては、その後「奇跡」が起きている。立ち退き期限の2週間前、地元のサッカークラブでスペインのラ・リーガに所属するカディスCFの幹部が突然訪れ、彼女の代わりにクラブが部屋を買い取ると申し出た。女性は生涯、これまでと同じ100ユーロ近い家賃を支払えば良いことになった*5

*5El Cádiz Club de Fútbol compra el piso de la señora María para evitar su desahucio(EL PAIS)

 女性やその親類、友人らは歓喜に沸いたが、立ち退き予定であった6月26日に、アパートの前で民泊増加などオーバーツーリズムへの抗議活動を行った。同じような憂き目に遭う人々が現在も多数、存在するからだ。バルセロナでも7月6日、「もうたくさんだ!観光にストップを!」と銘打ったデモ活動が予定されている。

 豊かな観光資源は、その地に暮らしてきた人たちの手によって大切に育まれ、受け継がれてきたものだろう。そこに暮らす住民らへのリスペクトに欠けた利益優先の視点は、いま一度見つめ直すべきではないだろうか。

楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。