偽・誤情報やヘイトを拡散し暴動を煽動するようなイーロン・マスク氏のXが英国で波紋を呼んでいる(写真:Frederic Legrand - COMEO/Shutterstock)
  • トランプ前大統領と「言いたい放題」の対談をX上でしたマスク氏。英国の大暴動などについても偽・誤情報やヘイトを拡散していた。
  • これを英国の首相官邸や警察当局が問題視し、旧ツイッターで欧州を担当した副社長はマスク氏を逮捕する必要性まで言及した。
  • 偽・誤情報やヘイトをSNSオーナー自らが拡散し、暴動を煽るような行為に罪を問えないのか、大きな騒動になっている。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 トランプ前米大統領は12日夜(米東部時間)、米実業家でソーシャルプラットフォーム・Xを所有するイーロン・マスク氏とX上で対談した。その内容は、トランプ氏が大統領選挙の集会中に銃撃された事件に始まり、不法移民問題、バイデン政権批判など多岐にわたり、2時間に及んだ。トランプ氏はお家芸である誇大表現や「ベーコンがインフレにより、この数年で4〜5倍の値段に(実際は1ドル増)」などという偽情報も交えていた。

トランプ氏とマスク氏は8月12日(現地時間)、Xで対談した(画像:トランプ氏のXアカウントより)

 トランプ氏は2021年1月初旬、当時はまだツイッターであったXで、個人アカウントを永久凍結されていた。その数日前の1月6日、トランプ氏の大統領選敗北という結果に不満を抱いた支持者らが連邦議会に多数乱入・占拠する事件が起き、140人以上の死傷者が出た。暴動を扇動しかねない投稿を繰り返していたトランプ氏に対し、当時のツイッターは更なる暴力行為を危惧してこの措置を講じたのである。

 それを覆したのが、2022年秋にツイッター(現X)を買収したマスク氏だ。「言論の自由の絶対主義者」を気取るマスク氏は、ツイッター時代に投稿内容が危険とみなされ永久凍結されたトランプ氏や英国の極右活動家などのアカウントを復活させた張本人である。

 英国ではそのマスク氏に対し、「逮捕状を請求すべきでは」との声が上がっている。

 トランプ氏同様、その好戦的な姿勢でも知られるマスク氏は、このところ英国政府を相手に派手に喧嘩を売り続けてきた。マスク氏は7月末、イングランド北西部で3人の少女が刺殺された事件に端を発した暴動に関連し、X上でトランプ氏さながらのヘイトや偽情報を垂れ流していた。英国各地に暴動が広がった最も大きな要因の一つは、X上で少女刺殺事件の犯人が「英国にボートでたどり着いた難民希望のイスラム教徒で、MI6の監視下にあった」という誤情報の爆発的な拡散であるとされている。

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 8月4日には、ある人物が暴動の動画を引用し「これは大量移民と国境解放の結果だ」とした投稿に、マスク氏は英国での「内戦は避けられない」とリプライした。これに対しスターマー首相のスポークスマンは正当性がないと反論する事態となった。 

 マスク氏は一度定めたターゲットに粘着質な性格なのだろうか。5日にはスターマー首相が、この暴動で襲撃対象になったモスクやイスラムコミュニティへの攻撃を断じて許さない、とした投稿に、マスク氏は「すべてのコミュニティを気にするべきでは?」と難癖をつけている。この投稿は、元のスターマー首相の投稿の830万のインプレッションを超え、1330万回閲覧されている。

 マスク氏の「暴言」は、更に深刻な領域にまで踏み込んだ。8月6日、スターマー首相の名前「キア」をもじり「2ティア・キア」という投稿を行った。この場合「ティア」は「段階」を意味する。

 つまり「2段階のキア」という意味になるが、マスク氏はこの言葉に、英国では白人とその他人種に対する警察による扱いが異なり、今回の暴動で警察が「白人により厳しく対処した」という持論を込めたのである。 

 この「陰謀論」に英国の警察は猛反発した。ロンドン警視庁のローリー警視総監はマスク氏の言い分は「全くのナンセンス」であり、こうした主張が職務にあたる警察官を危険に晒すと話した。