民主党の大統領候補ハリス氏(現副大統領)はワルツ氏を副大統領候補に指名した(写真:ロイター/アフロ)

この11月に実施される米大統領選の副大統領候補が出そろい、民主党と共和党の対決構図が固まりました。バイデン氏撤退の後、民主党の大統領候補として指名を確実にしているカマラ・ハリス副大統領は、ミネソタ州のティム・ワルツ知事を副大統領候補に指名したのです。共和党はすでに元大統領のドナルド・トランプ氏とJ.D.バンス上院議員を正副大統領候補に決定済み。トランプ氏とハリス氏の論戦が注目されますが、副大統領による戦いにもにわかに関心が高まっています。どのような人物が選ばれ、選挙戦にどう影響を与えることになるのでしょうか。そもそも米国の副大統領とは? やさしく解説します。

西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス

バンス氏:40歳、貧困家庭出身の弁護士でシリコンバレーの成功者

 それぞれの副大統領が選ばれた理由とその横顔を見てみましょう。

 78歳のトランプ氏は40歳と若いバンス氏を副大統領候補に選びました。トランプ氏に対する高齢批判を和らげ、若さを打ち出す狙いです。同時に、自らの政治理念を絶やさないための後継者の存在をアピールする目的もあります。

図:フロントラインプレス作成。写真は両氏の公式HPから
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 バンス氏が米中西部のオハイオ州出身であることも大きな理由と言っていいでしょう。2016年の大統領選でトランプ氏が勝利した際、中西部の労働者票が大きな支えになりました。今回も中西部の支持基盤を固めるためには、「オハイオ州出身」が大きな力になると考えたのです。

 バンス氏は高校卒業後、海兵隊に入ります。イラク戦争などに従軍した後、名門イェール大法科大学院に進み、弁護士資格を取得。弁護士として活動する一方、シリコンバレーの投資会社で働き、ベンチャー企業への投資でも成功しました。2022年の上院選でオハイオ州から当選、わずか2年足らずで副大統領候補となりました。

共和党のトランプ氏は副大統領候補にバンス氏を指名した(写真:USA TODAY Network/アフロ)

 バンス氏は自伝『ヒルビリー・エレジー』で、田舎町の恵まれない家庭に育った自らの経験を赤裸々に綴っています。薬物依存で離婚と再婚を繰り返した母には、乗用車を暴走させて一緒に死のうとする虐待も受けたといいます。

 没落する白人の貧困家庭で育ったというバンス氏の境遇は、鉄鋼や自動車産業が衰退し「ラスト・ベルト(錆びついた地帯)」と呼ばれる中西部の労働者層と重なります。そして、こうした白人の保守層がトランプ氏の支持基盤であり、多くが「Make America Great Again(MAGA、アメリカを再び偉大に)」というトランプ氏のスローガンに共感しています。

 これに対し、民主党のハリス氏は、バンス氏と同じ中西部出身の白人である60歳のワルツ氏をぶつけてきました。民主党支持層や無党派層がバンス氏を擁するトランプ陣営に流れるのを防ぐとともに、トランプ氏の地盤を切り崩す狙いがあります。

 ワルツ氏とは、どんな人物でしょうか。