バイデン大統領が撤退しハリス副大統領が参戦したことで米大統領選の構図は一変した(写真:ロイター/アフロ)

11月投票の米国大統領選が極めて異例の展開を見せています。共和党のトランプ前大統領が党の候補指名を受ける直前に銃撃を受けるという暗殺未遂事件が発生。民主党現職のバイデン大統領は突如として選挙戦からの撤退を発表、後継としてカマラ・ハリス副大統領の指名獲得が確実視されています。選挙戦の構図はガラっと変わります。米国政治の底流で何が動いているのか、やさしく解説します。

西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス

選挙戦の構図は一変

 7月12日のトランプ氏銃撃事件は、米国だけでなく世界に衝撃を与えました。トランプ氏は右耳を撃たれて負傷しましたが、命に別状はなく、直後の共和党全国大会で大統領候補として指名を獲得しました。撃たれた直後に拳を上げて聴衆に不屈の姿勢をアピールしたことは、強いリーダー像として受け止められ、トランプ陣営は大きく勢いづきました。

 劣勢に立たされたのはバイデン氏です。6月のトランプ氏との討論会では精彩を欠き、高齢不安が広がっていました。それに加え、トランプ氏銃撃による共和党の結束を見た民主党重鎮たちは「バイデン氏では勝てない」と判断。撤退を拒否し続けたバイデン氏は結局、外堀を埋められる形でついに選挙戦からの離脱を表明したのです。

 バイデン氏が後継に指名したのは、ハリス副大統領です。最も大きな理由は、選挙に向けた組織や資金を引き継ぐことができると考えたからでしょう。正副大統領の名で選対組織を連邦選挙委員会に登録していたことから、「ハリス選対」に看板を掛け替えるだけで済むというわけです。これについては、トランプ陣営から違法との指摘も出ています。

 ハリス氏が正式に大統領候補として指名を受けるには、手続き上の課題をクリアしなければなりません。正式な指名は8月半ばに開かれる民主党の全国大会で各州の代議員による投票で決まります。バイデン氏は2024年1月から各州で開かれていた予備選・党員集会で、必要な代議員数を確保しています。これら代議員はバイデン氏に投票するために選ばれた人々ですが、全国大会でハリス氏に投票できるのでしょうか。

図:フロントラインプレス作成
拡大画像表示

 大会を運営する民主党全国委員会の代議員選出規則には、代議員の責任について「良心に基づいて、選挙人の心情を反映しなければならない」とあるだけです。予備選・党員投票の結果を尊重するものの、究極的には自由意志で投票できるということです。米国では、ハリス氏が指名に必要な代議員数を確保したと報道されました。

 また、全国大会に先立ってインターネットで事前投票を行い、決着させる道もあります。バイデン氏はこの方法で指名を決める予定でした。民主党内には複数候補による論戦を求める声もありますが、党幹部らは混乱を避けて党を結束させるため、候補をハリス氏に一本化して事前投票で指名を決定することを目指しています。